株式会社Qosmo代表取締役、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授、Dentsu Craft TokyoのHead of Technology、東京大学工学博士、メディアアーティスト、DJなど様々な活動をされている徳井直生さん。
AIといえば!と同時に、PROGRESSIVE FOrM、op.discといったレーベルでの活動やNujabesとのコラボレーションなど音楽家としても活躍しています。
今回は、そんな音楽家「Nao Tokui」を切り口にSOUNDABOUTしていきます。
出演者 : Nao Tokui (徳井直生)
ファシリテーター : CD HATA、松尾謙二郎
- CD HATA : 徳井さんと松尾さんは、invisiも絡んでいた資生堂グローバルフラッグシップストア案件が「はじめまして」だったんですか?
- 松尾 : いや、一番最初はDentsu Lab Tokyoで最初にお会いしたんでしたっけ?
- 徳井 : そうですね。
- 松尾 : 徳井さんって優しいんですよ!こんなゴツい肩書きじゃないですか。東大や慶應って載ってて難しい人かな?と思ったら全然そんなことなくて「サーフィン好きなので湘南の方に住みたいです。」って言ってる感じ(笑)。
- 徳井 : 今は15年ぐらい湘南に住んでます。
- 松尾 : 大学の先生っぽくなくていいなと。
- 徳井 : 大学の先生で、DJ、サーファーとかやばいですよね(笑)。
- 松尾 : PROGRESSIVE FOrMからリリースしてるって、聞いてビックリして「俺よりも音楽家やん、かっこえー!」って(笑)。
- 徳井 : 親に子供の時にピアノをやらされてて、6,7年ぐらいやっていました。でもピアノの練習をするよりもサッカーをやっていて、真面目にやってなかったんですけど、最初に音楽にのめり込んだのがヴィヴァルディ。親の持ってたレコードを聴いて、グルーヴがやばいなと(笑)。
- CD HATA : SOUNDABOUTの第3回目、その時に一番最初に好きになった曲を1曲、invisiのメンバーにそれぞれ挙げていってもらったんですが、自分が挙げたのがヴィヴァルディでした!幼稚園に行くと、まずヴィヴァルディの春が毎日かかってたんです。
- 松尾 : ヴィヴァルディ偉大説(笑)。
- 徳井 : 自分はダンスミュージックとして聴いてましたね、今から思うと(笑)。
- CD HATA : ヴィヴァルディでガンノリ(笑)。
- 松尾 : 僕らが踊るっていったら、キックが4つ打ちで入ってないとみたいなイメージがあるけど、音楽って人を盛り上げる力が必ずある。確かにものすごくパワフル!
- 徳井 : それが小学校の時で、電子音楽にハマったのは大学に入ってAphex Twinとか。
- 松尾 : いきなりAphex Twin?そこまでにあいだはなかったんですか?
- 徳井 : それで言うとヒップホップですね。最初に買ったレコードはA Tribe Called QuestとかNasとか。90年代のヒップホップにドハマりして、DJをやるほどじゃなくて聴いてるって感じでしたが、渋谷のタワーレコードでヒップホップコーナーとか順番に試聴していました。大学1年生の時に、Aphex TwinやSquarepusherが出てきて、聴いた瞬間にぶっとばされて「なんだ!カオティックな中に美しさがある!」みたいな。瞬間的にハマってCDを買って帰ってずっと聴いていました。
- 松尾 : 東大時代に?
- 徳井 : そうですね。クラスにDJをやっている人がいて、一緒にクラブ連れていってもらったりしました。家に行くと808とか909があって、Force Inc.ってAkfenとかも出していたドイツのレーベルですけど、そっからリリースしていて、 T-Kitaniっていう名前なんですけど。
- 松尾 : その人も東大だよね。天は二物を与えまくりますね(笑)。
- 徳井 : 「レコードを出してるんだよね」って話になって、なんだその「レコードを出す」ってどういうこと?って。それまで「デビューする」っていうと、メジャーレーベルから歌手として売れるとかアイドルしか想像してなかったから、ドイツにテープを送ってレコードとして出るなんてことがあるんだって思いました。その人と音楽を作ったりDJをするようになったりっていうのがきっかけになりましたね。
- 松尾 : ガンガンデモテープを送ったんですか?
- 徳井 : 送りましたね。最初はMC-303とかを買って打ち込みで作ったり、次はMPC2000でサンプリングベースで作っていました。
- 松尾 : おれ一切デモテープを送ったりしてなかったんです。曲は作りまくってましたけど行動力が違う。
- CD HATA : 作られた曲は松尾さんの思い出の中のみなんですか?
- 松尾 : 思い出の中のみです。今から送ろうかな(笑)。
- 徳井 : 近くにそういう人がいたっていうのがデカイです。
- 松尾 : 知ってる知らないが大きな差を生むっていうわかりやすい例ですよね。
- CD HATA : クラブにも行くってお話も聞いたんですが、どんなクラブに遊びに行ってました?
- 徳井 : 一番行ってたのはYELLOWとMANIAC LOVEですね。始発で朝5時とかに行ってました。
- CD HATA : After hoursですよね。いわゆる朝活ですね。
- 松尾 : 朝早い方が健康的、能率いいよみたいな感じ?
- 徳井 : そうですね。朝一でコーヒー飲みながら。
- CD HATA : MANIAC LOVEとかAfter hoursとか結構やってましたよね。
- 徳井 : 10時ぐらいまでやってましたね。
- 松尾 : おれも教えてもらってたらやってたな。
- CD HATA : 朝活、今度一緒に行きましょう(笑)。
- CD HATA : てっきり、エンジニア・テック系でブイブイ言わせて、その流れでそういう人達と知り合ってって流れだと思っていました。
- 徳井 : どっちかというと逆なんです。DJを先にやってて、プログラミングを始めるようになったのも音楽を作りたかったからなんです。
- 松尾 : 徳井さんは、全てが常に音楽に寄ってるじゃないですか。普通、AIエンジニアとかAIプログラマってそんなところにいかない。常に音のコンセプトがあるから、すげえなって。むしろそんなにこっちに来ないでっていう(笑)。やっと見つけたブルーオーシャンなのに、徳井さんっていうでっかい星として輝いてる人が来ちゃうとって思ってました(笑)。
- CD HATA : 音楽のほうが先に幹にあってだったんですね。
- 徳井 : ピアノは真面目にやってなかったし、他の楽器も弾けなかったんですけど、その中で他の人が作れない音楽を作るにはどうしたらいいかって考えてました。大学4年生に上がる時に研究室を選ばないといけなくて、そのときに人工知能の研究室が新しくできて、ここなら人工知能を使って、自分の音楽を拡張できないかなと思いました。なんて、かっこいい言い方をしましたが(笑)、実際は音楽で卒論を書けたらいいなと考えてたぐらいなんですけどね(笑)。人工知能を使ってリズムとメロディーを生成するシステムを卒論とか修士でやっていました。
- 松尾 : そういう人ってあまりいないから、目立ったんじゃないですか?
- 徳井 : そうですね。そういう友達は、さっきのDJの友達しかいなかったですね(笑)。研究室でも完全放置プレーで「好きにやっていいよ」って、でも好きにやらせてくれた先生に感謝してます。
- 松尾 : 音楽を王道のプログラミングの世界でやってる人って、異端児扱いされるんですよね。MITに「誰か音楽プログラミングをやってる人いない?」って、ジョン・マエダさんに聞いたことがあるんです。ゴラン・レヴィンっていうのがいるって聞いて、MITまで会いに行ったんですよ。彼も放置プレイされてましたね(笑)。だけど好きなことをとにかくやりまくってる感じで面白かった!
- 徳井 : 今やゴラン・レヴィンはメディアアートのパイオニアですもんね。
- 松尾 : 徳井さんは、独特な世界観のAIの使い手として認知されてますけど、AIで選曲するシステムとかっていうのは、徳井さんが有名になるきっかけでしたか?
- 徳井 : それもありますが、卒業するまではAIと音楽をやってたんですけど、その後AIから一旦離れて、Qosmoを立ち上げてパリにあるソニーのCSLにいたんです。
- 松尾 : またかっこいい!コンピューターサイエンスラボ(CSL)っていうSONYがやってるラボがあるんです。日本とフランスにあって、なぜかフランスはAI音楽をやるって文脈がある。
- 徳井 : IRCAMもありますもんね。
- 松尾 : IRCAMっていうフランスの国の音楽研究機関があるんです。自分は何の関係もないけど、いきなりドンドンドンって「中見せろ」って行ったことがあって。そしたら日本人の人がいて「見せてあげたら」と交渉してくれて案内してもらったことがあります。
- CD HATA : 道場破りみたいですね(笑)。
- 徳井 : めちゃくちゃ行動力あるじゃないですか(笑)。フランスはそういう文脈がありますよね。電子音楽は伝統的にクセナキスとかみたいな人達も多い。CSLから戻って、メディア研究財団という研究所で働いていました。ジョン・マエダさんが昔いらっしゃったところです。それからQosmo作って。その後AI冬の時代があり。
- 松尾 : 1回ブームがきて下がったんですよね。
- 徳井 : 2000年ぐらいですかね。90年代頭ぐらいまでAIブームで、90年代後半から冬の時代でした。仕事にならなくて、Qosmo立ち上げたときは広告関係の仕事もやってました。スマホのアプリを作ったり。
- 松尾 : 広告関係やってたってのは意外ですけどね。
- 徳井 : メディアアートの作品を美術館で展示したりもしてたんですけど、広まる範囲が狭くて、どうしてもホワイトキューブで終わってしまう。今から考えるとそれはそれで価値があることなんですが、もっと多くの人に届けたいなということで、広告の仕事をやってました。それから自分が一番好きだった自分の原点に少しずつ戻ってきました。余裕ができたってのもあるけど。
- 松尾 : 最初から順調だったんですか?
- 徳井 : 最初の1,2年は大変でしたけど、その後は順調でした。いい仲間に出会えたのが大きいと思います。
- 松尾 : どういう仕事をしてたんですか?
- 徳井 : キャンペーン用のスマートフォンアプリを作ったり。有り難いことに賞も、もらいました。有名なところでいうとSound of Hondaがあります。アイルトン・セナの鈴鹿でのファステストラップを音だけで再現するやつです。
- 松尾 : カンヌでグランプリでしょ!
- 徳井 : スピーカーを並べて、マルチチャンネルの空間の音の処理をやったんです。僕がやったというより、会社として。真鍋大度くんが光の部分、澤井くんっていうQosmo立ち上げたメンバーが、音周り全体を仕切ってました。有り難く成果が出たので、会社としては順調に回ってたんですけど、自分が一番好きだったAI x 音楽に少しずつ戻っていって。
- 松尾 : なるほど。音楽のリリースはいつごろから?
- 徳井 : MPCとかを使って曲作り出して、それが大学3年生。
- 松尾 : MPCなんですね。かっこいい!
- CD HATA : ヒップホップを通ってるとMPCですよね。
- 徳井 : 大学4年生から大学院の1年ぐらいまでMPCでハードテクノを作ってたんですけど、その後Maxと出会いました。
- 松尾 : それは我々にとって大きいですよね。
- 徳井 : それまでリズムを作るソフトウェアとか自分でCで書いてて。それがやりたくてCを勉強したんですけど、MIDIの音を一個出すのに一ヶ月かかった(笑)。
- 松尾 : いい話(笑)。
- 徳井 : そこからシーケンサーとか作ってました。いまだにそれは系譜として残っていて、論文も書いたんです。当時そんなに注目されなかったんですけど、いつの間にか引用数が増えていて嬉しいです。
- 松尾 : すごい!なかなかいないですよね。
- 徳井 : 進化計算っていって、自然の進化の仕組みをシミュレーションして、最適化するみたいなアルゴリズムを応用して音楽を生成する。さっきのForce Incから出してた友達が、僕の1ヶ月かけてMIDIの1音を出してるっていう状況を見かねて「Maxっていうのがあるよ」と助言してくれて、研究室の先生に頼んで買ってもらってもらいました。当時8万円。
- 松尾 : 高かったですよね。今4万円ぐらいですかね。
- 徳井 : 4万円でも高いと思いますが。買ってもらってやったら、だいたい3分ぐらいでできちゃっいました(笑)。それですっかりハマってMaxで作るようになり、ちょうど並行してエレクトロニカと言われる音がPROGRESSIVE FOrMから出てきて、AOKI takamasaくんのSILICOMとかが活躍するようになった時代でした。
- 徳井 : Maxで音楽を作り始めたときに、SILICOMとかの音楽にハマり、Max Summer Schoolってのが2001年くらいに岐阜のIAMASであったんですけど、周りでMaxをやってる人はいなくて、Maxをすすめてくれた友達も存在は知ってるけど自分では使ってませんでしたし、Max Summer Schoolに行って、初めて自分以外でMaxを使ってる人に会って興奮しましたね。自己紹介が面白くて「好きなオブジェクトは何か」っていう(笑)。
- 松尾 : 1個1個がプログラムになってるからそれをオブジェクトと呼ぶんだけど、僕はcounterが好きですね。
- 徳井 : 僕も同じです!(笑)。
- 松尾 : 徳井さんと同じなのは嬉しい!
- 徳井 : counterってのがあるの知らなくて、自分で同じ機能のものを作ってたんです。そしたら「counterっていうのがあるよ」って教えられて。
- 松尾 : Maxユーザーあるある(笑)。めちゃくちゃ頑張ったんだけど「何これ!これ使えばいいじゃん」って2秒で終わっちゃう。
- 徳井 : Maxで音楽を作るようになって、デモテープを作ってPROGRESSIVE FOrMに送ったら受け入れられてリリースは2003年です。
- CD HATA : op.discからも出してますもんね。
- 徳井 : 学生のときに田中フミヤさんに憧れていて毎月のようにYELLOWのCHAOSというイベントに遊びに行ってて。フミヤさん僕のPROGRESSIVE FOrMのアルバムを気に入ってくれてて、CHAOSにライブで呼んでくれました。その流れでop.discからも出させてもらいました。
- CD HATA : ヨーロッパでもDJをされてました?
- 徳井 : やりましたね。フランスでも友達がイベントやったりとか、あとフミヤさんとベルリンで。
- 松尾 : CSLにいたときはフランスに住んでいたんですか?
- 徳井 : 住んでました。2年位。
- CD HATA : フランスのクラブとかでもDJしてました?
- 徳井 : はい!2004,5年くらいですかね。
- CD HATA : 思い出に残るクラブ体験ってあります?
- 徳井 : Batofarっていう昔の真っ赤な消防船がクラブになってて、そこでやってたのとかは面白かったです。
- 松尾 : ヨーロッパって、クラブでめっちゃ楽しんでる感じするよね。
- CD HATA : 海外って、夜遊ぶ時にバーかクラブしか選択肢がないんですよね。日本だとカラオケ、ボーリング、ビリヤードとか、夜の選択肢が多いんですけど。
- 松尾 : そうだよね。日本って1000円握りしめて、何か食べに行くといったら、ラーメン、たこ焼き、お好み焼きとかめっちゃある。でもイギリスにいる頃って1000円あったら、ケバブ、中華、ハンバーガー、フィッシュアンドチップスの4択で、日本って選択肢がすごい多いですよね。
- CD HATA : 選択肢がなく、バーかクラブしか夜遊ぶところがないから、クラブで楽しむことが日本より一般的なんでしょうね。
- 徳井 : それは感じますね。Rexって老舗のクラブがあるんですが、ジェフ・ミルズが来たとき並んでて、前にいる人の会話が聞こえてきて「今日誰が出るの?ジェフ・ミルズって誰だろうね?」って「それなのにこんなに並んでるのか?」みたいな(笑)。あと、近所のおじさんおばさんみたいな人もきてますし。
- 松尾 : 日本では中々ないですよね。
- 徳井 : サウンドシステムはドイツや日本に比べるとよくなかったんですけど、音より体験を楽しみに来ている感じですね。
- 松尾 : Nujabesさんと会った時の話を聞きたいなぁ。
- 徳井 : それもかなり偶然で2001年のMax Summer Schoolの時なんです。普通の格好の人が隣に座って、何者なのか知らなくて、話しをし出して、今でこそMaxって音楽のイメージも強いですけど、当時は研究者とかエンジニアが音響の処理をしたりとか、調査のために使うのが多かったんです。あとメディアアート的な使い方とか。音楽にMaxを使ってる人って、当時そんなにマジョリティじゃなかった。そういう話を隣の人としてたら、ランチに車で乗せてもらって一緒に味噌カツ屋に行くことになったんです。その時に車の中でテープで曲をかけてくれたんです。Shing02さんとやってた Luv(sic)で「これ今度リリースするんだ」って言われて「何だこの人すげえな、めちゃくちゃかっこいい」と。
- 松尾 : 泣けてくるぐらいの話。
- 徳井 : もともとヒップホップが好きだったんで、その文脈もわかるし、東京に戻ってから「一緒に曲を作ろう!」ってなりました。毎週水曜に彼の家に行って、2年ぐらい毎週いろいろ実験したり「最近あのレコードやCDがよかった」みたいな話をしていました。今から考えると、めちゃくちゃ貴重な話です。
- 松尾 : いまだにめちゃくちゃ評価高いじゃないですか。あまり接点がなかったし、僕はそんなCDを買う方じゃないけど、Nujabesを買ってめちゃくちゃいいなと。あの人の存在感はあのシーンではとても大きかった。
- CD HATA : ブライアン・イーノさんともお会いしているんですよね。
- 松尾 : 僕からしたら神ですよ!どういう関係で会ったんですか?
- 徳井 : 2016年なんですけど僕のところに話が来たっていうよりは、Dentsu Lab Tokyoの菅野くんという友達のところに、The Shipってアルバムのプロモーションを兼ねてミュージックビデオを作りたいっていう話があり。もともと菅野くんにブライアン・イーノが好きだという話をしてたんですけど、AIを使って音楽を作るのは、彼の昔から言ってるgenerative musicとかと相性がよくて、博士論文の中でイーノを引用してたりするぐらい大好きだったんで、その辺の話をしてたら「徳井を呼ぼう」と言ってくれたらしくて。
- CD HATA : どんな話をしたんですか?
- 徳井 : AIを使ったウェブサイトを作ったんですけど、一番覚えてるのは、電通がカンヌでセミナーをやっていて、セミナーの後にイーノさんとご飯に行ったら、菅野くんが気を利かせて「隣座ったらいいよ」って。イーノさんが「わからなかったら自分がメニューを説明するから」って(笑)。フランス語のメニューなので。
- 松尾 : いいな!ブライアン・イーノがメニューを説明してくれるレストランなんてないよね(笑)。
- 徳井 : 「AIを使いたい」という話をしたときに、Artificial Stupidityに興味があると言いました。愚かさ、つまり賢く人間を真似するとかじゃなくて、ちょっとバカで、面白く常識とか既存の概念から外れたものを返してくれる機械だったら使いたいと。それが Artificial Stupidityです。
- 松尾 : さすがイーノ先生、いい事言いますね!
- 徳井 : あと「どうやって音を作ってるんですか?」って質問をしたときに「LogicのFMシンセしか、ほぼ使っていない」と言っていました。
- 松尾 : そうなんですよね。その昔はDX7だけで作っていて「なんで?」って思ってたんだけど、美しいなと思います。僕らは飽食の時代にいて、どんなものでも手に入るみたいな感じになってる中で、自分のあり方をソリッドにやってる。ミニマルというか。
- 徳井 : いろんな作品で、ちょっとずつテイストは違うけど、聞いたときに「イーノの音だ!」ってなるのは、そういうところから来てるのかなと思います。
- 松尾 : めちゃくちゃプロデュースしていたり、作品を出してる人じゃないですか。どこからインスピレーションが来るのか。ああなってみたい!
- CD HATA : 今後やってみたいことはありますか?
- 徳井 : AI DJのプロジェクト、AIと僕でback 2 backでDJをするというのを最近アップデートしてます。曲をかけるんじゃなくて、AIが曲を生成していきます。
- 松尾 : 生成するっていうのは?
- 徳井 : 曲といってもリズム、ベースライン、上モノくらいなんですけど、ミニマルなテクノ的な構成で生成して、そこに僕が介入することで音楽が変化して一つのパフォーマンスになるというものです。マシンジョッキーというかAIジョッキーというか。AIをうまく乗りこなしながら音楽を生成して、その場限りの一回しかできないパフォーマンスをやっているんですけど、AIを使わないとできないような、生身の人間だとできない領域を突き詰めてみたいです。
- 松尾 : 新しいリリースはあるんですか?
- 徳井 : 実は今プレス中で、自分のレーベルを作って、単純に趣味みたいな感じですけど、自分でプレスして流通させたいです。
- 松尾 : レーベル名は?
- 徳井 : Surf on Entoropyです。
- 松尾 : さすがSurf入れてますね(笑)。徳井さんの好きなものがちゃんと並んでる感じがいいですね。
- 徳井 : ちなみにSurf on Entropyはイーノの言葉で、95年のWiredの記事で「人間は何でもトータルにコントロールされてる状態と、カオスみたいな何もコントロールされてない状態の二元論で考えがちだけど、実際に面白いのはその中間」と言っていて、コントロールしてるようでしきれていない、ランダムなようでコントロールされている。彼の音楽はそんな感じなんですけど、彼はこの状態を「サーフィンする」と言っています。
- 松尾 : かっこいい!イーノ大先生のセンスですね!
- 徳井 : あと、ご飯食べてたときにbrexitの話をされてました。彼は反対派で、新聞の全面広告とか出されてました。個人名だったかは覚えてないですけど。
- 松尾 : 文化人だよね。
- 徳井 : 音楽・アートはもちろん、政治から哲学から全部話せる人、でも彼の哲学が突き通されてます。ああいう人になりたいです。
- 松尾 : AIの徳井さんじゃなく、今回はミュージシャンとしての徳井さんをフィーチャーできてよかった!
- 徳井 : なかなかそういうふうに見られなくなってきているので「音楽もやってるよ」って。
- 松尾 : 新しいリリースはいつごろですか?
- 徳井 : 今コロナでレコードはプレスが遅れてるし、需要が高すぎてプレスの工場がいっぱいなんです。世界的にもプレスできる場所って少ないので、メジャーなアーティストがおさえちゃっていたり。本当は去年の夏ごろの予定だったけど、今の感じだと、早くて2月とかに届く感じですかね?
- 松尾 : そのレーベルでは他にもいろいろ出してる?
- 徳井 : 第一弾でこれからです。
- CD HATA : 松尾さんもデモを送らないと(笑)。
- 松尾 : 送ろう!送るぞー!
- 徳井 : 是非お待ちしております(笑)。
- CD HATA : 今回のSOUNDABOUTもお楽しみいただけましたでしょうか?といった感じで、徳井さんありがとうございました!また音の話をしながら有意義な回り道をしていこうと思ってます。また次回もよろしくお願いします。それではありがとうございました!