クリエイティブを生業している者にとって、できあがった作品がどう広がっていくのか、また、どのような人達に、どのように届いていくのかは重要な要素としてあります。
あれがアートであれ、エンターテイメントであれ、デザインであれど。
今回は、アナログとデジタル、両方の技術を熟知した上で創り出されるスタイリッシュな映像で、世の中をエンターテインする会社「モンブラン・ピクチャーズ株式会社」の竹清仁さんをお招きし、アート、エンターテイメント、デザインの境界線に関してSOUNDABOUTしていきます。
また音の側面から「放課後ミッドナイターズ」の制作秘話も、お聞かせいただきました。
ゲスト : 竹清仁 (モンブラン・ピクチャーズ)
出演者 : 中村優一、高木公知
ファシリテーター : CD HATA
- CD HATA : 今日はよろしくお願いします!まずは自己紹介から。
自分はDachamboのシンセサイザー担当CD HATAです。テクノDJ、AbletonMeetupTokyoの運営、DTM講師、そしてインビジfellowsとしても活動中です。
- 中村 : 福岡事務所の中村です。代表の松尾と一緒にインビジを立ち上げました。
- 高木 : 同じく福岡の高木です。先週親知らずを抜きました。
- 竹清 : 福岡を拠点にした映像制作スタジオ、 モンブラン・ピクチャーズの竹清です。
- CD HATA : ベタな質問からいっちゃいますが、竹清さんは、もともと映像はお好きなんですか?
- 竹清 : 月並みなんですけど『スター・ウォーズ』の特撮にやられました。 中学生のときに日本語吹き替え版でリバイバルをやっていて、そのとき初めて観たんです。 よく「衝撃で椅子から立ち上がれない」って言うじゃないですか。本当に動けなかったです。 なので当初は特撮、VFXのほうに行きたかったですね。
仕事にしようと初めて思ったのは高校のとき、運命的に8mmカメラを手に入れたんです。 作品を作って高校の文化祭で上映したら、これがまぁ受けまして(笑)。 こんな楽しい世界があるのか!って、自分の居場所を見つけた感じがしました。
- 高木 : 文化祭でハマるってめっちゃよくわかります!俺も文化祭でバンドやって、あれが生涯で一番お客さんが入ったライブですね。特に女の子にあるじゃないですか、先輩がかっこよく見えるっていうバフ、あれがかかって一瞬だけモテました(笑)。
- CD HATA : 松尾さんも第1回で言ってましたね。高校の文化祭でモテるって話。
- 中村 : そういうの俺だけないのかな...。曲作って誰に披露するっていうもんじゃなかったから。
- CD HATA : これからモテ期が来るんじゃないですかね(笑)。
- 高木 : 竹清さんがそのとき撮った映画ってどういうもんだったんですか?
- 竹清 : スピルバーグ監督他の 『トワイライトゾーン』って「世にも奇妙な物語」の元ネタになってるようなオムニバス作品があるんだけど、これだったら短いやついっぱい撮ればいいやって5本くらい作ったんです。
そのとき僕、物理部っていう超イケてない部に入っていて(笑)、何作ってもよかったんですよ。お化け屋敷とかリニアモーターカーの模型とか、映画作ってる先輩もいて。
当時小倉に住んでいてチャリンコで通ってたんですけど、近所にあった寿屋っていうスーパーが急に閉店することになって閉店セールを始めたんです。ポイントサービスの景品もショーケースまるごと叩き売りされていて、その中になぜか8mmカメラもあったんですよ。しかも当時15万円くらいするものが3万円で。これは買うしかないでしょ、ということで、バイトして返すからって親に頼んで貸してもらいました。で、撮ったんです。
そのあと続きがあって、8mmカメラは手に入れたんですが、カメラだけじゃ映画作れないんですよ。
撮って、現像して、フィルムができてきたら編集しなきゃならないんですけど、編集するためのエディタと、フィルムを切って繋げるスプライサーっていう機械がいるんです。チャリンコで小倉中、いや北九州中のカメラ屋を回って探してもなくて、カメラ屋のおっちゃんに探してる理由を説明したら「わかったわかった、おっちゃんがあげるよ」ってエディタもスプライサーもくれたんです。で、映画が作れて...ハマっちゃったんです。
- 中村 : すげーいい話(笑)。
- CD HATA : 当時映像を撮るって全然一般的なことじゃなかったですよね。
今なんて、スマホがあれば手軽に撮れて、編集までできて。相当変わりましたよね。
- 竹清 : 羨ましいですよ。いや、半分羨ましいかな...undoができるかできないかで、クリエイティブが相当変わってくると思うんですよね。
- CD HATA : それは音楽もあります。
今ってデジタルになって編集前提で、録画も録音もいきますからね。テープしかなかった時代の緊張感とはなんか違いますよね。
- 中村 : 僕らはテープしかなかった時代を経験していないんで、その緊張感を体験してないですね。
- 高木 : 当時のカメラはプレビューもできないですもんね。プレビューで確認すればいいや、というのもないですもんね。
- CD HATA : 巧みの技というか、ノウハウの蓄積が大きくなりますよね。
- 竹清 : そう。現像に1週間待つから。切実だから1コマ1コマに対する感覚が鋭敏になる。
- CD HATA : デジタルの良さはもちろんありますよね。
音楽でいうと、トータルリコールが効くっていうのはほんとありがたいし、CPUパワーの恩恵でできることがどんどん増えました。音だけに関していえば、だいたいできることはできるようになったかなって感じがしますが、映像に関してはいかがでしょうか。
- 竹清 : マシンパワーで何が変わったかっていうと、ゲームエンジンでいうと、レンダリングしなくてよくて、リアルタイムで表現できるようになった。でも、結局具体的な物を作らなきゃいけないから、CPUがどんなによくなっても時間とお金はかかっちゃいますね。
- CD HATA : 実際に映像制作を仕事としてやり始めたのは、どういうタイミングだったんですか。
- 竹清 : 最初は僕、大学出て東映に入ったんですね。映画監督になりたくて。でも今なら分かるんですが、ああいう大会社が担うのって監督ではなくプロデューサーなんです。すごく面白かったんですけど、お金を出して誰かに作ってもらうんじゃなく、自分の手を動かして作ることをやりたくて、退職しました。
その後4年間、神戸の大学で教職につきました。30になる頃、ちょうどコンピューターのCPUパワーも上がって、ネットの環境も良くなって、これなら地方で自分の得意なデザイン力を生かした映像制作ができるんじゃないか、ということで
「KOO-KI」っていう会社を作ったんです。そっから「モンブラン・ピクチャーズ」になったのが10年くらい前です。
- 高木 : 12/1にモンブランさんは10周年を迎えたんですね。(一同)おめでとうございます!!
- CD HATA : 今でも自分で手を動かすタイプですよね。社長として会社を経営しつつも。
- 竹清 : そうそう。自分で動かしたい。インビジの代表と同じじゃないですか(笑)?
- CD HATA : そうすると、経営者のときとクリエイターのときでは視点を切り替えてるんですか。
- 竹清 : 半々ですね。要は問題解決なんです。目の前にある問題を監督として表現として解決するか、経営者として解決するかなんですけど、使う脳みそは半分は同じで、この両方をいったりきたりするのはちょっとキツイんです。
- CD HATA : 予算的なことを切り離して、作ることだけを考えることって今でもありますか?
- 竹清 : 部分的にはありますね。KOO-KIのときにやっていた仕事は少人数でもできる仕事だったのでそれでもよかったんですが、映画を作りたいってなると「登山隊」を作らないといけなくて、チームなんですよ。それでモンブランっていう山の名前の会社にしたんですけど。
映画になると予算のこともクリエイティブに直結してきます。うまく両方やらないと必ず予算の壁が出てくるんですよね。それをどうやって解決するか、基本的にはアイデア、コンセプトと言ってもいいですね。それさえ押さえておけば、ちゃんと面白いもの、目的を達成するものができると思っているんです。
モンブランでは、作り方から開発しようってなるんですね。仕組みとアイデアの両輪を工夫しているから両方がコントロールできてると思うんですよね。
- CD HATA : そういえば、高木さんは一時期モンブランに出向していたと聞きました。
- 高木 : そうなんです。僕、大学時代にミクシィのバイト募集でインビジに入って、そのまま就職したのでインビジでしか仕事経験がなかったんです。ネットやPC環境が整ったこともあり、作曲の仕事って自己完結しててあまりにも外の世界を知らなすぎるっていうんで、松尾の勧めもあって2018年にモンブランさんに出向という形でお邪魔しました。 色々お仕事をご一緒させていただくことになり、本当によい経験でした。
モンブランのみなさんって、すげー仲がいいんですよ。遊び心がすごいあって、チームで仕事の相談はもちろんですけど、ボードゲームとか一緒にしたりね。
- 竹清 : 遊び心は大事。もっというと無駄は大事。なんとなくそういうムードなんだよね。
高木君がいたときは、日々の仕事の問題解決とかを音からアプローチできないか、気軽に相談できてとてもよかった。
- CD HATA : デザイン、アート、エンターテイメントの境界線について話していきたいと思います。中村さん高木さんはアートとエンターテイメントはどう定義してますか?
- 中村 : アートは自己表現、個人や会社の存在意義を表現する要素が強いと思っていて、エンターテイメントっていうと外に向けていくんで、喜んでもらうっていう目的が強いと思います。
- 高木 : 僕自身は大衆的なものが好きでアートに明るくないので、半分偏見かもしれないんですけど、アートはビジネス度外視で自分の考えていることを形にするものかなと思っています。エンターテイメントって興業っていう側面も大事だから、バランスが難しい。みんなに受けようと考えるとつまらないものになって、いろんな人が「私だけがその良さがわかる」と思わせられるのが成功するエンタメで、成立させるのはすごい難しいことって思います。
- CD HATA : モンブランさんはエンターテイメントに重きを置いていると思いますが。
- 竹清 : そうですそうです。僕らはエンターテイメントに一番重きを置いていて、やりたいって思っています。そのために作ったのがモンブランピクチャーズです。
きっかけは
『放課後ミッドナイターズ』っていうCG映画を作って、携わっていたスタッフが、チャンスがあったらエンターテイメントに集中したいよね、という思いがあってスタートしたんです。
- CD HATA : 俺すごいファンなんですよ。SOUNDABOUTチームの会議で、ゲストを竹清さんにってなった時に、「放課後ミッドナイターズの方とお話できる!」って思いました(笑)。
- 竹清 : ありがとうございます(笑)。いうたら、インビジさんとはもう25年のお付き合いですから、長いですよね。
- 高木 : よくぞ愛想尽かさずにここまでお付き合いいただいてます(笑)。
- 竹清 : 何を言いますか。最初のきったない事務所のこともよく覚えてますよ(笑)。あの雰囲気好きでした。
前の会社のときは広告の仕事が主だったから、クライアントが何か問題を解決したくて映像制作をしてくださいってことがほとんどなんですよね。これはジャンル分けしたらデザインです。映画は、面白がらせる、楽しませることが目的なので、エンターテイメントですね。 エンターテイメント性のあるCMってのもありますが、これはあくまで問題解決の手段としてのエンターテイメントなのでデザイン。エンターテイメントとは明確に違うと思ってます。
僕、映画とCMの監督どちらもやりますけど、映画のときは「とことんわがままでいてください」って周りに言われるんですよ。確かに自分が映画を見る時は監督が遠慮して作ってるものなんて見たくないですよね。
アートは、自分のためにやるっていうのが一番近いと思ってますけど、もともとは美を追求するものだったと思います。自分の内面にとことん向かうっていう。
エンターテイメントはお客さんを楽しませる方向で、アートは誰がなんといおうが、自分が美しいと思うものを追求する。 最終的に、結果どこに受けるかっていうのは後の話ですね。
- CD HATA : モンブラン・ピクチャーズは登山隊(チーム)でやっていくということですが、逆にひとりでやっていくという選択も今の時代可能になったのかなと思います。
- 竹清 : そうですね、手段としてはどちらも可能でどっちもありだと思います。例えば漫画家なんかがイメージしやすいかもしれないですが、「ストーリーを考える」、「絵を描く」などいろんな長所を一人で持ってないといけないんですが、チームだと色んな人のいいところをミックスして、一人ではできないことをやることができます。
- 高木 : 曲作ってるとき、音楽ソフトとか発達してきたんで、いろんな楽器の音源で済むんですよね。でも、例えば弦楽器を打ち込みでやりますっていうとき、その表現力に迫ろうとすると打ち込みにむちゃくちゃ時間かかるんです。できる人に頼んだほうが早いんですよ。
なんでも自分でできる時代ではあるし、予算の関係もありますけど、僕は状況が許すなら、プロにまかせたいと思うようになりました。 モンブランにお邪魔した期間に、色んなプロフェッショナルな方々とお付き合いさせてもらったのが影響してると思うんですよね。
- 竹清 : それはよかったのか悪い影響を与えちゃったのか(笑)。 難しいんだけど、自分の立ち位置を決めることは大事だと思いますね。
4年だけ教員やってたんだけど、デザインの学校なんだけどアートの先生が教えてるのを垣間見て、ちょっとこれいいのかな?って思ったんだよね。
映像だろうが、音だろうが、文章だろうが、自分の立ち位置を定めることは大事だと思いますね。
- CD HATA : 竹清さんが今後やりたいことは何でしょう。
- 竹清 : 引き続きエンターテイメントのジャンルのものをやっていきたいです。
映画を中心としてるんですが、最近は体験型の映像を作ることが多くなっていて、VRとか博物館の特定のスクリーンで観られる映像だったりするんですが、キャラクターとストーリーと、特定な空間で、特別な体験ができるものを組み合わせる。
テーマパークのアトラクションに近いイメージです。
はらのむし(九州国立博物館)
ディズニーを作りたいんですよ。上質なエンターテイメントのスタジオを作りたいんです。
- CD HATA : 最後に『放課後ミッドナイターズ』のことも、もう少しお聞かせいただいてもよろしいでしょうか!
- 竹清 : 2012年に全国公開したCGアニメーション映画で、主人公は人体模型と骨格標本。都市伝説をテーマにしたコメディアニメーションです。 公開時に、広告宣伝用の90秒ショートムービーを13本作って、色んな映画の上映前に全国展開しているT・ジョイっていう劇場で流してもらったんです。
それがなぜか今、ネットでバズっており、ファンが増え続けてるんです。
- CD HATA : セリフがないんですよね。
- 竹清 : もともと劇場公開時は主人公役を山寺宏一さんにやってもらったんですけど、ショートムービーは予算もなくて、苦肉の策で全部字幕でやったんです。そうしたら、これが受けまして。
漫画と一緒なんですけど、みんなの脳内で、理想の音が理想のタイミングで鳴ってるんですよね。これ、字幕をコマ単位でコントロールしてるんですけど、コメディはホントに「間」が大事だと痛感してます。
脚本の前にプロットを作るのですが、プロットを元に役者さんと稽古をしながら変更していって撮影に臨みます。完成したものに、どういうセリフをどういうタイミングで字幕で付けるかっていうのを最後にブラッシュアップします。
中村君と以前一緒にやった、MTV JAPAN – OUTSIDERっていうMTVのオープニングパッケージがあったんだけど、先に中村君に音楽を作ってもらって、後から映像を付ける形をとって、映像と音が合わさって初めてグルーブができるみたいな作り方してましたね。あれに似てるかな。
- CD HATA : なるほど〜!「誰のためのクリエイティブ」とてもとても興味深いお話ありがとうございました!