コンピューターや電子機器などのテクノロジーを利用した芸術表現であるメディアアートでは、音や映像などを扱うものも多く存在します。
今回は、福岡在住のメディアアーティストであり、anno lab代表の藤岡 定さんをお招きし、音を中心としたメディアアート、ニューメディアアートに関して、インビジのボス松尾謙二郎とインビジの福岡チーム高木組の組長である高木公知とSOUNDABOUTしていきます。
楽しさを重視し、楽しさを共有するクリエイティブの話が展開されています。
ゲスト : 藤岡 定 (anno lab)
出演者 : 松尾謙二郎、高木公知
ファシリテーター : CD HATA
- CD HATA : 松尾さんは何度か出演いただいてますが、高木さんはvol.3以来ですね。
自己紹介お願いします。
- 高木 : 福岡チーム高木組組長の高木公知(きみのり)、作曲家、編曲家、音楽プロデューサーです。2009年に当時のinvisible designs lab. に入社しまして早12年。CMやWEB、プロモーション系の音楽制作を中心に活動しています。
- CD HATA : そしてゲストのanno lab(あのらぼ)藤岡さんどうぞ!
- 藤岡 : 定(さだむ)といいます。2012年にanno labという会社を立てて、10期目です。
メディアアート作品であったり公共施設の体験型の展示など、インタラクティブなコンテンツを中心に作っています。
- CD HATA : 3人とも福岡出身ですが、長いお付き合いですか?
- 藤岡 : もうそれこそ10年以上ですね。
- 松尾 : 最初はたぶん「(九州)好青年科学館」ですかね。 九州芸術工科大というのが当時あり、現在は九州大学に統合、文字通り「きゅうしゅう」されてしまいましたが、
- 藤岡 : ふふふ
- 松尾: そこはねぇ、まさに芸術と工学っていうコンセプトでできてる大学だったから、僕も実家から近かったし本当は行きたかったんだけど、音響設計っていう学部の偏差値が異常に高かったんです。70いくつとかよね?
- 藤岡 : そうですね。
- 松尾: 通えなかった恨み節で結構頻繁に遊びに行ってて、で、さだむ君たち学生がやってるイベントがあって、みんなと交流しようってんで仲良くなったのが最初かな?
- 藤岡 : 多分、いちばん最初は、作曲家の 中村滋延先生が「freq(フレック)」っていう、音と音楽の在り方を示すイベントをやっていて、マツケンさんが見学にいらっしゃってて、津田さんにご紹介されたんだと思います。
- 松尾: おおお、津田さん。...という、大学横断的に信頼されている工房のおじさん(工作工房の津田三朗さん)がいて、彼に「誰か面白い人教えて」って紹介してもらうのがパターンだったんですよ。今でもですが。
それがもう14,5年前ですかね。それこそ
anno
labができるときに「おまえらで会社作ればいいじゃん」ってよく言ってましたね。
- 藤岡 : はい、言われてました。先の 「九州好青年科学館」というのはメディアアート展だったんですが、仕組みとかプロセスをしっかりアウトプットして見える形にして、科学館みたいな感覚で楽しめる展示にしようと企画していました。福岡アジア美術館で1週間開催したんですけど、スポンサー周りなどもして、そのときinvisiマツケンさんにもスポンサー料を払ってもらうなど、大変お世話になりました。
- CD HATA : そもそもメディアアートとは、なんなんでしょう?
- 藤岡 : 僕らがやってるのは、ニューメディアアートとよくいわれるんですけど、インターネットとか、YouTubeとか、メディアを使ってアート作品を作るものを指しています。
もともと音楽が大好きで、自分が好きになるアーティストがテクノロジーを駆使する人が多くて、そういう音楽表現とかアート表現に興味を持ったっていうのがあります。
Nine Inch
Nailsっていうバンドが大好きだったんですが、ライブでも当時から映像を効果的に演出に使っていたり、ノイズ系のミュージシャン、Ovalとか自分でソフトウェアを作って音楽を作っていたり、bjorkも大好きだったんですけど、そういったものにすごく興味を持って芸工大に入ったんですね。
僕が進学相談に中村先生を尋ねたとき、主催してるイベントがあるからいらっしゃいと誘っていただいたイベントで堀尾寛太さんがパフォーマンスをしていて。そのパフォーマンスがですね、クリップを風船の中にいれて、そのクリップを電磁石でパチパチ動かして、風船の正面にコンパクトマイクをつけてクリップがカチカチいう音を爆音でスピーカーから出すっていうのでした。これは何を見せられてるのか!っていう...
- 松尾: 堀尾くんの真骨頂だね!
- 藤岡 : 衝撃的にそういった表現の最先端に触れました。
二重の衝撃だったんですが、ひとつは、これは音楽といっていいのか!という衝撃、そして次に、これを大学の研究としてやっていいんだ!って思いました。
こういう世界にぜひ入りたいと強く思って芸工大に入りました。
- 松尾: なかなかいないよね、ああいう人は。
- CD HATA : 高木さんは音楽を作っていて、メディアアートってどう見てるんですか?
- 高木 : 僕自身はまったく疎くて。社長をはじめ、invisiでやっている仕事や関心ごとを介して目の当たりにしているという感じですね。
こういうことも音楽って言っていいんだ!って感じてますね。
- 松尾: それけっこうキーですよね。つまりジョン・ケージが言った「楽音が音楽か」っていうのが論議されてると思うんですけど、楽器が演奏するものが音楽だっていう定義はだいぶ揺らいでます。音楽の歴史をみても、だんだん広がってるんですよ。ダイバーシティーというか、考え方自体が広がっていますよね。
ジョン・ケージとサウンドスケープ(音風景)
- 高木 : いろんな環境音を録音して音楽に仕立てるっていうのはinvisiの得意技としてありますね。例えば水の音を山ほど収録して音楽を作ったり、
お菓子の音を使ってビートを作ってみるアプリとか、僕も、車の音を使って『威風堂々』を演るっていうのをサウンドデザインでやらせてもらったことがあります。
僕自身の音楽の定義もどんどん広がっていって、
発信する側が定義すればそれは音楽っていっていいと解釈してます。
- 藤岡 : メディアアート側に立ち返るとメディアが多様化しているっていうのが、音楽の枠が拡がっている要員のひとつかなと思っています。音っていうのもメディアなんで、表現の一部に音を取り入れるという考えです。
音楽側も、映像やツイッター、それこそ水、お菓子の音なんかもひとつのメディアとして扱うようになって多様性が広がっていると思います。
- 松尾: デジタルだからできるようになったっていう部分もでかいよね。 2000年前後くらいからプログラムで音楽やアートを表現するというカルチャーが出てきたのがニューメディアアートと言われている部分のブレークスルーという気はします。
なんでも使ってやろう、っていうのがアーティストのひとつのモチベーションだったりしますね。
- 藤岡 : 音とテクノロジーの関係性って、普通のコンピューターの世界と比べて一歩早いという気がしています。
例えばMIDIみたいなインターフェースって、キーボードとマウスという世界よりもフィジカルなものをベースとしてたんで。楽器を演奏するっていうのがフィジカルですから、発想がわりと普通のコンピュータよりも少し先にあって、そういう意味で、音楽をきっかけにテクノロジーをやっていたのが、世の中のフィジカルなコンピューティングっていうのが追いついてきたって感じます。
- CD HATA : 先んじているからかもしれないですが、音楽をコンピュータ上で作る、機能的な部分って、わりと飽和してきているのかなっていう気がすることがあって... DAWでもやれる機能ってほぼ出揃ったという感じがしてて、例えばバージョンアップっていっても、革新的な変化というよりは例えばプリセットが充実したとか...
- 松尾: 技術の進歩って、音楽を発展させると同時に壊してるっていう感じもします。
今まで演奏家と一緒にやらないと成り立たなかった部分が、コラボしなくてもできるようになっちゃったって、若干、本末転倒かなって思いますね。
- CD HATA : ビジュアル表現っていうのはまだまだ伸び代があるのかなって思いますが。
- 藤岡 : アート的な表現のコアの部分っていうのは、ビジュアルがどれだけリッチになったっていうのと違った要素があって、それは10数年前には確立されてるのかな。
ただ、映像配信が音楽を伝えるメディアとして発展したというのは大きいですね。
以前はCDのように、音のみで伝えていたものが、今ではYouTubeのように映像を音楽表現の一部とする土壌が確立されています。
- 松尾 : anno labというか、さだむ君はその前から、プログラミングと表現ということに関して、とにかく先んじてたよね。openFrameworksとか日本に入ってくる前からやってるし
- 藤岡 : テクノロジーに興味があったので、どんどん先鋭化していったというのはありますね。とにかく最新の動きに注目していました。
- 藤岡 : テクノロジー自体に興味を持ったきっかけは、高校1年生のときに行った 「世界のシンセサイザー展」という山口県防府市の公民館で開催された展覧会です。当時の最新のマシンが揃っていて、スピーカーで火を消すパフォーマンスとか、中でもbjorkが実際に使っていたものが部屋全体に設置されていたりして、とにかく凄かったんです。
それまで自分は文系に進むと思い込んでいたのですが、その展示を見て「これからはテクノロジーだ!」となって、翌日、担任の先生に「理系にいきたい」と土下座する勢いで頼み込み、2年生からのクラス編成をし直してもらって。結局、九州大学の工学部に行きました。
電気情報工学科でJAVAを使ってAI研究とかして、研究自体は面白かったんですが、卒業後の進路についてあれこれ考えているときに、このシンセサイザー展のことを思い出し、音を使った研究がしたいと思って大学院から芸工大に移ったわけです。
- 松尾: けっこう衝動的!
- 藤岡 : そうなんです。飛び込むのが大好きなんです。
当時は、プログラミングで何かを表現する仕事みたいなのはなかったと思うんですが、研究室でそういう表現をやっているうちに土壌が整ってきて、anno labを設立したというかんじです。
そのときもけっこう逆風だったんですよ。芸工大で博士課程を終え、九大で学術研究員として働いていたんですが、ちょっとこのまま研究員として進むこともどうなのかなと思っていたときに、仲間たちが集まってきて、週に1度サロン的に「火曜会」というのを始めたんです。これがanno labの前身となりました。
そのころ
「森の木琴」制作に誘っていただいたんです。
- 松尾 : 実は高木は「木琴」の影の活躍者なんですよ。
- 高木 : 入社して1,2年目だったんですけど、「俺、音楽を作る会社に入ったのになんで木切ってんだろう」って思ってました(笑)。今振り返ると音楽じゃない経験を積ませてもらえたのが今の仕事に繋がっていて、自分自身のポイントになったなと思ってます。僕は「木琴」で、さだむさんはじめanno labの皆さんを知ったんです。
- CD HATA : 「木琴」はinvisiにとっても、大きかったんですね。
- 松尾 : むちゃくちゃデカイですよ。ラッキーパンチ以外の何ものでもないですね。
- 藤岡 : マツケンさんのおもてなしも凄かったですね!
- 松尾 : キャンプ場のロッジ借りてみんなで寝泊りしてて、朝も早いので、シェフに朝ごはん仕込んでもらったり、ランチはコスプレイヤーの女の子に給仕してもらったり(笑)。
- 藤岡 : 職人中心の現場で、細かい作業でキリキリしがちな中、そういう施策をしてくれて。こういうサービス精神って場の雰囲気を変えますよね!むちゃくちゃ楽しくて良い雰囲気がクリエイティブに出ます。
- 高木 : 2月のむちゃ寒い時期に、コスプレしてくれた彼女もすごいガッツでしたね!
- 松尾 : anno labはそういう「楽しい遺伝子」を持ってますよね。
最近の大きな作品って何があるんだっけ?
- 藤岡 : 大分県豊後高田市の「花とアートの岬 長崎鼻」にデジタルアートの美術館を作り、「太陽と月の部屋」「海の部屋」「森の部屋」という3作品(3部屋)常設しています。
「不均質な自然と人の美術館」
- 松尾 : 「annolab美術館」みたいなものだよね。
- 藤岡 : 常設の施設に作品を置ける機会ってなかなかないので、本当にありがたいです。
「太陽と月の部屋」は部屋の中にセンサーを仕込んで、どの位置に人がいるか細かくセンシングしています。
天井に設置している288個の小窓が人の動きに合わせて開閉し、太陽の光が人の動きに合わせて移動します。部屋自体が楽器になっているみたいなコンセプトで、蓋がひらくとピアノの音も鳴ります。裏で楽譜を読むソフトウェアが走っていて、その曲のある小節に含まれる音符から音が選ばれて鳴る仕組みです。
ソフトウェアで新しい楽譜を作って、楽譜を描きながら音楽を演奏するといったことを大学で研究していたんですが、既存にないような演奏の手法をやってみたかったので、今回その延長線上で音楽的に拘ることができて本当に楽しかったです。 参考にしたのが、シェーンベルクが考え出した「12音技法」です。そのルールを少しアップデートして音楽の仕組みに入れたかんじです。
シェーンベルクが生み出した「十二音技法」 新ウィーン学派(2)
- CD HATA : その時は、コスプレーヤーは存在せず(笑)?
- 藤岡 : そうですね(笑)。でもみんなでワイワイ楽しく作ってました。天井の蓋のデバイスとかも自分たちで作って、ひとつづつ取り付けて。「木琴」の時のように、つなぎ着てがんばりました!
「海の部屋」は、水を使ったインスタレーションで、ウォーターパールっていう、1秒間に60個くらい水の玉を高速で出す特殊な噴水を使っています。それを40列天井裏に設置して、1秒間に1000フレームの超高速な光を当ててプロジェクションマッピングしていて、水の玉が空中に止まったり上下にアニメーションするようなことをやっています。
- CD HATA : 松尾さん高木さんは行ったことあります?
- 松尾 : すっごい行きたいんだけどまだです。
- 藤岡 : すっごい秘境の岬の先端です。
- 高木 : invisi中村が一緒にやったんですよね。
- 藤岡 : そうなんです。ピアノのシステムは僕が作りましたが、それ以外のサウンドデザインは3部屋とも中村さんにお願いしました。中村さんは、いつもぴしゃりとイメージどおりの音を返してくれるんで本当にありがたいです。
「森の部屋」は、ムービングライトの土台の上に、超指向性スピーカーを取り付けてグリグリ回せるデバイスをこの部屋のために作りました。超指向性スピーカーは音が真っ直ぐそこだけに飛ぶので、狙った人のところに飛ばせるし、円形の丸い部屋なので、音を反射させて斜め後ろから聴かせたりしています。森って、いろんな方向から音がしますよね。スピーカーを設置しちゃうと音の出口が固定しちゃうのですが、この方法で問題をクリアし、音が色んな方向から聴こえてきたり、映像自体から音が跳ね返って飛んでくるような設計にしています。
- CD HATA : 聞けば聞くほど凄いなぁ!作るのにどのくらいの期間がかかったんですか?
- 藤岡 : スケジュールがむちゃくちゃで、公募出たのが6月で決定したのが7月くらい、そして年度内に完成させるつまり翌年3月中完成というスケジュールだったんですが、不幸中の幸いというかコロナと被って現場が頓挫したこともあり、オープンは8月となり、プランニングから含めて約1年という超ハイスピードでした。
作品のために部屋を設計するという経験はなかなかできるものではありませんので、贅沢な思いをしたなと思っています。
自然が本当に美しくって、岬にあるので、日の出日の入りどちらも見られるというとても珍しい場所なんですよ。
行者洞穴っていう面白い音が鳴る洞窟があったり、神仏習合の地とも言われています。
美術館は常設であり続ける場所なので、こういった周りの自然や歴史・文化としっかり結び付けてアップデートしていきたいなと思っています。ぜひ遊びに来て欲しいです。
これからも、自分たちが楽しいって感じているのを、体験する人たちにもちゃんと伝えていくようなアウトプットをしていきたいですね。