エンタメの王者、ミッキーマウスが誕生する少し前に生まれた音の録音と再生技術 モノラルからステレオ、そして立体音響へ
今回は、360 Reality Audio専用スタジオ「山麓丸(サンロクマル)スタジオ」をオープンさせた、LADER PRODUCTIONの原田氏を迎え、そしてインビジのボス、松尾謙二郎と共に、イマーシブサウンドについてSOUNDABOUTしていきます。
ゲスト:LADER PRODUCTION 原田亮、松尾謙二郎
ファシリテーター:CD HATA
- 原田 : 2014年から音楽を中心としたクリエイティブプロダクションの株式会社ラダ・プロダクションを経営、代表とプロデュース、プランニングを担当しています。 2021年6月 - 青山に「山麓丸スタジオ」をオープンします。
- 松尾 : インビジ、coton代表の松尾です。社長です。新しく「ビートカメラ」/beatcamera(coming soon)っていうのが始まります!CD HATAさん、 FUJI ROCK FESTIVAL'21参加おめでとうございます!常連ですね。
- CD HATA : ありがとうございます!普段やってるバンド Dachamboでは5回目くらいかな。苗場で頑張ってきまーす。
1876年:電話の発明、エジソンとの競争の末ベルが特許取得
1877年:エジソンによる、蝋管レコード=蓄音機の発明。最初に録音されたのが
『メリーさんの羊』
1881年:国際電気博覧会(パリ) 二つの会場を電話線で繋ぎマイクを左と右において、ステレオによるライブ配信実験が行われた
1887年:ベルリナーが、円盤型の蓄音機グラモフォンを完成。後のVictor社の元となるベルリーナ・グラモフォン社の誕生。レコードという媒体が生まれる
1891年:ステレオ伝送による配信実験が行われる
1901年12月5日:ウォルト・ディズニー誕生
1928年11月18日:ミッキーマウスの誕生日(スクリーンデビュー)
1940年:
ディスニーが映画『ファンタジア』を製作、映画史上初のステレオを採用
- 原田 : 興行的にも赤字覚悟で『ファンタジア』のために新たに劇場を作ったり。そのときすでにマルチトラックレコーディング9チャンネルをやってたんですよね。
- 松尾 : 『トムとジェリー』も特に第二次世界大戦前に作られたものなんかは、もの凄くオケが凝っているんですよね。これは完全に『ファンタジア』の影響だろうと思ってます。
- 原田 : ディズニー自体が音楽を先に作ってそこに動きを乗せていったというのは有名ですよね。
- 松尾 :
モノラルからステレオって0が1になるみたいな、すんごいインパクトだったと思うんですよね。だからこそ「マルチ音響」ってステレオからどこまでいけばみんながすごい!って感じるんだろうってのは興味あります。
音響的にエレベーション、上下の表現ってなかなか録音に出てこないですよね。
- 原田 : 頭部伝達関数
(HRTF)というフォーマット、どういうふうに立体的に音を認知しているかっていう式があります。耳の位置や頭蓋骨の形で認知の仕方が異なるんですよね。
例えばマスクをつけると音の奥行きが減退するとか、裸で聞いてるほうが立体感を取れるっていう話もあります。
耳に届くまでに体で反射しているんです。 みなさん音楽を作るときにリバーブかけますよね。そのときに初期反射ってパラメーターありますよね。それは部屋の四隅をどうやって反響しているかっていうのを擬似的に作り出して立体感を出してるんだけど、体に届くところでも反射が起きてるってことです。
- 松尾 : 声なんかまさにそうですよね。
- CD HATA : やっぱり筋肉質の人と、ちょっとふくよかな人では違うんでしょうね。
松尾:僕おっさんなんで高周波12kとか限界なんですが、22kまで聴こえる!っていう若い子もいて。そうなると見えてる風景も違う。今のところそこに不都合はないですが、もっと高齢になってくるとどうなるかわからないですね。
- 原田 : インフォメーション(information)の語源って、in=中、form=形、つまり、心のなかで形成される、という意味なんですよね。松尾さんの記憶のなかに高い音も蓄積されていて、今聞こえなくても経験が補っているのもあるんでしょうね。バイアス、個人差がめちゃくちゃありますね。
- 松尾 : 読唇術ってありますけど、口の動きが言語を理解しやすくしているっていうのあります。
- 原田 : リモートワーク以降、マスクの内側を見たことがない人との打ち合わせは難しい。目は口ほどにって言いますけど、実は口の形に本音が出るんじゃないですかね。
- CD HATA : 口を含めた表情全体。
- 原田 :
ステレオの発見から実験を経て、民生機として普及するまでに60年くらいかかっていて、1958年にアメリカでステレオのカートリッジ、ステレオのレコードが本格的に広まっていったらしいです。
ステレオ録音したステレオレコードが作られ、レコード針のカートリッジがステレオに対応し、安価に手に入るようになったのが50年代後半。ちょうどモダンジャズの全盛期。
アトランティックレコードなどはステレオ前夜にモノ版と一緒にステレオのミックスダウンしたマスターを沢山作っておいて、一気にカタログを出せるようにセットアップしていたらしいんです。
アトランティックレコードはジャズ、ブルースといった
レイス・ミュージックと呼ばれていた黒人の音楽が民衆化していくことに貢献したことで非常にリスペクトされていますね。
- 原田 : 日本では、戦後ソニーを中心に、トランジスタラジオ、テープレコーダーをエレクトロニクスの分野で積極的に製造していきます。
『ファンタジア』が日本で観られるようになったのは戦後、富田勲などは相当な衝撃を受け、後のシンセサイザーミュージックに天啓を得ました。
ソニーはトランジスタのライセンスを取り、ポケッタブルラジオを作っていく。井深大がアメリカでステレオレコーダーを聞いてその立体感にぶったまげた。早速自分たちも取り組もうっていうことで、NHKに押しかけ、
NHKラジオ第1と第2でステレオ放送をするっていう企画書を持っていったんですね。そして深夜放送帯で実施。全国から反響があって、FMステレオ放送の先駆けとなったんです。
テクノロジとソフトウェアのアイデア、日本的な挑戦ですよね。
大阪万博(1970年)では、武満徹、ストックハウゼンが、1008個のスピーカーを使用した実験的な企画をパビリオン「スペースシアター」で実施しています。 武満たちは、楽典的な理論から音楽を進化させる目的で、立体音響に自覚的に早くから取り組んでいます。
- 原田 : 特に立体音響を自覚したわけではないけれど、90年代にハウスやテクノいわゆるクラブミュージックを聴いて育ったので、ダンスフロアで音を浴びるような原初体験があって、特に、パラダイス・ガラージやザ・ロフトなどNYの70,80年代のディスコ音楽を深掘りしました。
ザ・ロフト創始者のデヴィット・マンキューソが2011年に来日して青山のCAYでアナログのレコードをハイファイにかけるイベントがあったんですが、5.1チャンネルでデジタルディレイを使いながら、立体感のあるサラウンド空間を作る、とんでもない格別な体験でした。イアン・デューリーのレコードとかとんでもない立体感でした。
- CD HATA : 札幌のPRECIOUS HALLなんかもそういうかんじですよね。
- 原田 : そうですね、音が飛んでくるみたいな。そういう遊びの場で立体的なサウンドデザインの本能的な気持ち良さみたいなのを教えてもらったていうのはあります。
あとは映像との組み合わせ。昔映画館で観た『プライベート・ライアン』(スティーブン・スピルバーグ監督)爆撃の音などが後ろから前からきてすごく怖かった記憶、こういうのも原初体験となっていると思います。
- 原田 : 2018年あたりに、Sonic Surf VR (波面合成技術)のコンテンツを作りに、ソニーの厚木工場やLAのソニー・ピクチャーズの映画スタジオパークに行ったんですが、そのなかのひとつに体験スタジオがあって、XR-VR的なものもあり、大変刺激的な体験をしたのが影響しています。これから立体音響がもっと身近になるんじゃないかなという思いもあります。
目黒の Sony PCL スタジオで360 Reality Audioを聴かせてもらって、非常に音楽的で、全天球が表現できる全方位音に包まれるという体験、これは面白いと思いました。
360 Reality Audioのポイントは3つあって、
1.360度表現できる
2.ヘッドフォンで体感できる
3.個人の耳の形に最適化できるんです。
- 松尾 : Sony PCLさん然り、立体音響を研究しているところの覇権争い、優劣はどう思います?
- 原田 : 昔のVHS,βみたいな時代と違って、ファイルフォーマットの中で完結するものなので、共存しやすいですね。併存していくんじゃないかなと僕はみてます。
プラットフォームは非常に重要なので、Apple Music がドルビーアトモスに対応しましたが、LINE MusicとかSpotifyなど、いろんなフォーマットで360 Reality Audioが聞けるようになるといいなというのはあります。純粋にプロダクションとして、映像と音を一体化した表現に関する実験を、日々のノウハウを蓄積しながらやっていきたいですね。