ニューヨークで音楽療法に携わり、静かで優しい音を聞きながらリラクゼーションするサウンドバス /サウンドメディテーションを提唱するHIKOKONAMIさんをお招きし、耳で聴こえる「音」の他に、身体に伝わる「本質的な音=空気の振動」のことなどをSOUNDABOUTしていきます。
出演者 : HIKOKONAMI (サウンドセラピスト/アーティスト)
ファシリテーター : CD HATA、松尾謙二郎、岩田裕大
- CD HATA : 今回HIKOさんをお呼びしたきっかけですけど、昨年10月にFREAKIN’ CALM OUTっていうHIKOさんとMondo Grossoの大沢伸一さんがやっているサウンドフルネスのイベント、これに松尾さん、岩田さんと一緒に参加したんです。 土曜日の朝7時からで、天気も良くて。
- 松尾 : めちゃくちゃ気持ちよかったですね。新宿御苑というすごく開けた緑の多い大きな公園で、みんなで寝っ転がって、音を浴びる体験といったらいいんですかね。
- HIKO : あの日は、クリスタルシンギングボールという楽器をメインに、 シュルティボックスも使いました。イベントによって使う楽器はさまざまです。
- 松尾 : そもそもサウンドバス、サウンドフルネスっていうのが一体どういうものかって、うまく説明できないなといつも思ってるんです。
- HIKO : 難しいですよね。音って空気振動じゃないですか、その空気が体に伝わる、音全体に体ごと包まれるっていう感覚は最近なかなか無いじゃないですか。特にこのパンデミックの後。そういう体験をするって感じですね。
- 岩田 : クラブとかで音を味わうのとはまた違いますよね。
- HIKO : 上げていくんか、下げていくんか違いますよね。
- 松尾 : それわかりやすいですね。リラクゼーションというとみんなわかりやすいかもしれないけど、あんなチープな体験ではないよね(笑)。HIKOさんがリアルタイムにみんなに浴びせる感じ、ご自身でも「これは演奏じゃない」って言ってたのがとても印象的で、こういっちゃうとスピリチュアルな感じに聞こえてしまうけど、一個一個の音の粒を感じるようで、安っぽいアンビエントとは違うんですよね。こないだのイベントでいうと、鳥の鳴き声とか日の光と相まって一緒に聞こえてくる感じがすごく良かったな。
- HIKO : サウンドバスはいろんな角度からお話しすることができるのですが、今回は音楽のプロフェッショナルの方達がリスナーなので、音楽的に説明しますと、元々のルーツは、ジョン・ケージを始めとするクラシックな実験音楽、音楽を別の観点で捉えるというムーブメントに影響を受けています。ジョン・ケージも”禅”の思想にすごく触発されて、そこから”空”とか今でいう”マインドフルネス”を音で追求していました。 音楽という枠を外して、すべての音、世界全体がオーケストレーションしてるっていう思想にすごくインスパイアされています。
私はニューヨークで勉強していたんですけど、そういったムーブメントの渦中にいた方達が教鞭をとっていました。 ラ・モンテ・ヤングがプロデュースしたドリームハウスっていう、パープルハウスとか言われたりもする場所がチャイナタウンにあるんですけど、ビルの一室にドローンミュージックがずっとかかっていて、鳴ってる音や紫色のライトはぜんぜん変わらないんですけど、今の自分の状態とか、外界からの影響によって、聞こえる音も見える光も変わってくるような場所なんです。サウンドバスもそこから影響を受けてると思います。 もともとは宗教儀式で使われる鉄のシンギングボウルというのが存在していて、チャンティングもそうですけど、そういうのも全部言ってみればドローンミュージックだし、トランスですよね。
クリスタルボウルを使い始めたのは80、90年代のアメリカのヒッピーたちと言われています。シリコンバレーでコンピュータなどの精密機器に使う際に水晶を加工するようになって、シンギングボウルも作ってみようということになったようです。
- 岩田 : こないだのイベントではスピーカーが使われてましたが、生音だけの時もあるんですか?
- HIKO : はい、大沢さんとのイベントでは電子音を使うのでPAのセットがありあすけど、私ひとりでやるときは使いません。あのくらいの広さでも、マイク使わずにやりますね。
- 松尾 : 僕らは職業上、どんな機材使ってんだろとか余計なこと考えちゃいますけど、いったんそこから解き放たれると、サウンドバスという字のごとく、お風呂につかるというか浴びるという感じでとても気持ちがいいです。
- CD HATA : 耳だけで聞いてるんじゃない感じがしますもんね。
- HIKO : 普通の音楽でも、コンサートなどは、音に包まれるようなスペシャルな体験ですが、抑揚があったりメロディーがあったりするとそちらに集中しちゃうので身体的な感覚にフォーカスしにくいというのがあると思うんです。
- 松尾 : 僕も最近それをテーマに考えていてHIKOさんの活動にすごく興味があるんです。 実は昨日、東京近代美術館の「対話観賞」っていうイベント行ったんですけど、作品の隣によく掲載されてる説明あるじゃないですか、あれを一切見ずに感じたままの印象を話し合うというもので、とても新鮮で面白かったです。 たとえばジョン・ケージの「4分33秒」がすごい哲学的だって考えて聞く部分があるけど、素直に聞ける気持ちがあったら別の捉え方があるよねって思うんです。
…といったものをサウンドバスには感じるの。考えるな感じるんだ!っていう。
- 岩田 : 確かに変に前情報があるとひっぱられますよね。そうじゃない味わい方が大事。
- HIKO : そういう音楽を解体するムーブメント、理屈や強制してくるものを排除して委ねる感じ。その後の世代っていう感じなのかな。ニューヨークってそういう所がすごく恵まれていて、実際にムーブメントに携わっていた人たちに普通に会うことができたんですよね。ポーリン・オリヴェロスって現代音楽家なんですけど、彼女のワークショップなども受けることができました。
たとえば、声を物質として捉えて、手で何かを包み込むような感じで自分の声を包んでトーンをキープして隣の人に回していく。
- 松尾 : 子どもの頃そういうのやったよね。
- HIKO : それを輪になって、回す人を複数にすると和音になって続いていくとか。 対面の人に向かって声を届けるっていうのをいろんな角度からやるとクロスして円の中に想像上の模様ができるとか。すごい単純なんですが面白いです。 異なるものが集合的に共鳴していくというものなんですけど、沢山の人で「あー」って声を出すと最初はバラバラなんですけど最終的にトーンがひとつになって落ち着いていくとか。
そういったワークショップに沢山参加して、言葉で説明するより体感として残っていて、モヤっとしたものとかそれについて自分で考えるとか、後で思い出すとか、そういう時間や体験ってすごく大切だと思うんですね。
今の人たち忙しくて目的のあることしかやらないですけど。
- 松尾 : みんな頭良くなっちゃった感じするんですよ。自分の体に正直な部分を忘れちゃってる部分があるなって。
- HIKO : せこいなって思うんですよ。目的があって、それについてのことしかしない。文脈の外にある豊かさみたいなものを忘れてるっていうか。
- 松尾 : 無駄なことをしたくないって思いすぎてるっていうか。
- CD HATA : 余裕がないんですかね?
- 岩田 : 効率化測ってますよね。
- HIKO : コスパって言葉がほんとに嫌いなんです。いかに得してるかみたいなことに価値を見出すのって(笑)、それより自分が好きかどうかちゃうの?って。
- CD HATA : 今の若い人たちって一番大事なのコスパらしいですもんね。
- 松尾 : 強迫観念みたい。非効率なこと、無駄なことはやめようみたいなね。実際人生って無駄なことしかないんだけどね。
- HIKO : これは国の問題ですよ。脅されて物を買わされてるだけなんですよね。みんなわかってるはずなのに、そういう仕組みの中につけ込まれて組み込まれちゃってる。
- CD HATA : 共鳴の大きな波がそっちの方向にいっちゃってるっていう...
- HIKO : ほんとそうですね。そういう情報から切り離す時間が大事だって思います。
- 松尾 : 音楽の中にもブランディングの要素がすごいあって、テクニックの話もそうだし、上手か下手かっていうのは音楽の本質じゃないし。
- HIKO : テクニックを披露するっていうものじゃないんですよね。 私自身は、伝えたいってものってないんですよね。これ癒しになりますよ、とか、あなたのためですよっていうのではなくて、感じる人の、自由を突き詰めていくときの怖さとか空気振動に包まれたときに自分の境界線がなくなるみたいな、どこまで音に入っていくのかって、慣れてない人にはビックリしちゃうかもしれないんですけど、そこに安心感を与える、ファシリテートするつもりでやってます。
- CD HATA : 場ってすごい大事ですよね。
- HIKO : そうですね。聴く体験って実はけっこう能動的なものなんです。自然に耳に入ってくると思われがちだけど、本当は精査してますよね。 つまり時間をそこに当てることにコミットしてる。 禅的な発想になるんですけど、一つのことをするときには一つのことをやりなさいっていうのがあるんですけど、心をこめてその瞬間を味わうっていう、マインドフルネスってことです。 レコードだとそのマインドセットがあるし、盤面ひっくり返さなきゃいけないし、ながら聴きってこともないですよね。音の味わいも違いますし。でもサブスクとかやってると勝手にプレイリストで流れてて、音楽の価値がすごく薄れてきたなって思いません?
なんかみんなめっちゃ適当やん扱いがっていう。
- 松尾 : 便利であることと、音楽を大事にすることは反対の作用があるかなって。
- 岩田 : 昔ってめっちゃ思い入れのある曲とか何回も聴くやつとかありましたし、プロダクトとしてCDとかテープとか物でもあったけど、今、もちろんサブスクとかで聴きはするんですけど、どんどん簡素になっているなと。
- HIKO : 昔よりも音質は良くなっているのかもしれないですけど、昔って自作のミックステープの交換とかありましたよね。あれってほぼほぼラブレターみたいなものでしょ(笑)?音質は良くないかもしれないけど、そういうメッセージも込みで何度も聴くっていう体験って今あるのかな?って思いますね。
- 松尾 : そういう荒い音質込みで記憶に残ってますね。デジタルメディアとアナログメディアって結局どっちが長持ちかって難しいよね。
- 岩田 : 写真とかともリンクしますね。久しぶりにアルバムを開いてみるとセピア色の写真にグッとくるとか。音楽でもそれがあったんですよね。
- HIKO : デジタルで加工アプリとかありますよね。セピア色にするとか。せこいやつですよね(笑)!
- CD HATA : そもそも一般的な音楽って「録音されたものを聴く」っていうのがデフォルトになっちゃってますよね今。でもそれって、すでにバーチャルな体験なんですよね。
- 松尾 : 音楽を聴くために楽団を呼んでくるかって、ないもんね。もともとは音楽を聴くことがスペシャルな体験だったから。それが安くなっちゃってるってのはありますよね。
- HIKO : とはいえ、大きな会場とかですごい数のひとたちと同じ体験をするっていうのは特別な意味があるじゃないですか。なぜそんなに特別なのかっていうと、演奏している人たちもフレーズの切れ目で息をする、身体的にも動きがあって、そうすると見ている人たちもだんだん同期してくるんですよね、体の動きも息継ぎも。それが何百人、何千人が同じ息遣いになってくると、心臓の鼓動や脈拍も揃ってくるんですよ。大きい塊が同じように振動して収縮してってことになって、そのエネルギーの中にいると、むちゃくちゃ幸福度が上がるんですよ。安心感とか。言葉にするの難しいんですけど、その圧倒的な力って、そこに行かないと体験できないんですよ。
- 松尾 : 同期ですね。
- HIKO : 共鳴ですね。
- CD HATA : 映画にしてもNETFLIXとかで観るのと、大きな映画館で観るのと違いますもんね。
- HIKO : アメリカで映画館行くと、ショーみたいなんですよ。拍手したりみんなでうぉーってなったり(笑)。日本だと声出すと怒られちゃうでしょ。
- 岩田 : 日本でも何年か前から立川とかで自由に声出していい映画鑑賞みたいなの(応援上映)やってますよね。
- CD HATA : 昔「ロッキー・ホラーショー」ってあって、あれって完全に観客参加型ですよね。
- 松尾 : イギリスに住んでた頃、本場のに行ったことあります。毎月「ロッキー・ホラーショー」上映する日があるんですよ。コスプレして参加したり、セリフ叫んだり、紙吹雪を飛ばしたり、めちゃくちゃ楽しかったなぁ!
- HIKO : ニューヨークでは、最初大学付属の語学学校で勉強していたんですけど、先生方はけっこうアカデミックなバックグラウンドをお持ちで、出される宿題が、社会的なことだったり、アートであったり、哲学だったり色々なテーマをカバーしてくれて、視野が広がったんです。加えて、大人が学びにいくっていうことにオープンだったんですね。 日本では大人になったら働かなきゃいけない、稼がなきゃいけないって思ってしまっていてアカデミックなことをやることを自分に許可を出せなかったんですよね。
日本ではアーティストって貧乏とか、結構ろくでもないとか。 ところがニューヨークだと「私アーティスト」とか言ってる人がたくさんいる(笑)。 渡米1年目に、アメリカ人の男の子のバンドに誘われて参加しました。 KORGのアナログシンセMS2000を使ったり、RolandのSH-01でゴリゴリのノイズ出すようなバンドだったんですけど、ステージで叫べとか飛べとか言われて嫌だったんです。 でも音によって人の気持ちが変わるとかコミュニケーションできるということにすごく興味を持つことができました。
当時、自分では英語ができると思ってたんですけど、実際はそんなことなくて、ところがバンドでインプロビゼーションとかセッションをすると、言葉以外で会話になる、コミュニケーションが取れて人間性もわかる。とてもファミリー感があって居心地がよかったんですね。 でも、バンドに居座ってるうちに、自分のやりたいことや才能を発揮するのは、ステージにいることじゃないんだろうなって思いが強くなってきて、子供にピアノを教えたりしていたのですが、ある時 ニューヨーク大学(NYC)に音楽療法っていうジャンルがあることを知って、セッションを見学に行ったんです。
コミュニケーションをうまく取れない子供たちが楽器を使って自由に音を出していると、先生がリードして、だんだんビートを作ったりハーモニーにしていって、心地よいものにしていくんです。 子供たちが幸せを表現する瞬間を目の当たりにして、音楽の力のすごさを実感しました。むちゃくちゃ感動して、そこでボランティアを始めたんです。 カーテンの後ろでセッションを記録する仕事だったんですが、毎度感動して号泣してました。 そういう体験を通して私もこれをやりたい!と思ったんですが、メンター的な先生に「この道でやっていくためには、音楽、心理学の学位を取るのに時間もお金もかかるし、学位取得後も研究者になるくらいしか将来の進路がない。それはあなたにとって良いことなのかしっかり考えてほうがいい」とアドバイスされて、諦めて別の学校を探して移りました。
そこはやってることも思想的にも同じなんですが、医療ベースではなく音楽ベース、日本でリトミックといわれているようなものでしたね。ただ可愛い要素はなくガチガチのアカデミックで哲学的なものでした。 その勉強をしていた矢先に、かなりひどい死ぬような交通事故に遭ってしまい、加えて人生のどん底に落とされるような体験をいくつもしまして、そこで精神的に自分を救ってくれるようなセッションを手当たり次第受けました。いろんなカウンセリングとかスピリチュアル系のものとか。
その中のひとつにシャーマンセッションがありまして、シャーマンに会いに行ったんですよね。
催眠療法に近いかな。ドラムとシャーマンの声で、インテンションを決めて自分の意識のなかの旅に出る感じです。それが私にとってはすごく効果があったんです。 改めて音ってすごいと感じて、サウンドヒーリングを学べるところに行きました。 そこでは本当にいろんな先生に会いました。クラシックの先生から、現代音楽、音楽療法、シャーマン、インドのマントラの先生、声の先生、民族音楽学の先生、フィールドレコーディングの専門家、量子力学の先生、物理学の先生、いろんな角度から音を学びました。
ディズニーの映画『ソウルフル・ワールド』観ましたか? 私、めちゃくちゃ感動したんです。主人公が人生に葛藤を抱えているんですけど、臨死体験みたいなものをするんですよ。形のないところで本当の自分の望みとかを探すんですけど、現生に戻ってパッと空を見上げたときに、木の葉がサラサラっという音と光が反射してキラキラする。これ話してるだけで涙出てきそう(笑)。そういう一瞬の美しさを捉えていて、それに心が震える瞬間を見過ごしてほしくないって思いますね。
- CD HATA : 今後やっていきたいことはありますか?
- HIKO : 今後ですが、民俗芸能、祭や神楽などを研究したいと思っています。 日本語の言葉や考え方の根底にあるものも、もっと知りたいなと。 精神的なものもそうだし、マインドフルネスなどにしてもウェスタンカルチャーの文脈で捉えようとするのも無理がありますよね。自分たちのルーツをしっかり掘り下げて仕事にも結びつけていきたいと思っています。