ズルズルと引き込まれ抜け出せない沼
計り知れない音楽の中毒性にハマってしまった人々
そんな人達と語り合う“ The 音楽沼 ”も、今回で3回目!!! 今回は、AMCJ(Ableton and Max Community Japan)のお三方、Akiyuki Okayasuさん、Akihiko Matsumotoさん、Suzuki kentaroさんをお招きし、インビジフェローズに在籍しながら、Ableton Meetup Tokyoも運営しているCD HATAと共に、なぜか(笑)、モジュラーシンセに関して(あれ?AbletonやMAXがテーマじゃないんだwくらいの感じで)、SOUNDABOUTしていきます。
ゲスト : AMCJ (Akiyuki Okayasu、Akihiko Matsumoto、Suzuki kentaro)
ファシリテーター : CD HATA
- CD HATA : まずはみなさんの自己紹介からお願いします!
- Akiyuki Okayasu : 音に関わるソフトウェアやハードウェアを作ってます。 よろしくお願いします!
- Akihiko Matsumoto : 音楽家で、主に作曲だったりサウンドデザイン、MAXを使ったサウンドプログラミングなど、エンターテイメント、アート、企業の開発案件まで幅広く音に関わる創作活動をしています。
- Suzuki kentaro : 何やってるかの説明がすごい難しいんですが、音に関するソフトウェアをデザインしたり、音を作ったりしています。
- CD HATA : みなさんモジュラーを使ってらっしゃると思いますが、使い始めたきっかけからお願いします。
- Akiyuki Okayasu : 大学2年の夏休みにバイトしたお金を全部突っ込んでモジュラーを買い始めました。
音大でコンピューター音楽の勉強してたんですが、初期の電子音楽でエリアーヌ・ラディーグっていうドローンの作家がいて、彼女が
ARPのモジュラーシンセを使ったドローンの作品を作っていて、それがコンピュータで作った電子音楽ともDAWのものとも全然違って「いいな!」と思ったのがきっかけです。
Eliane Radigue(エリアーヌ・ラディーグ)|70'Sラディーグの重要作品にしてフィードバック・ドローン名作『Vice Versa, Etc....』がリプレス
そのときは電源のケース、フィルター、グラニュラーのモジューラ、アウトプットだけ買って、オシレーターとか音の出るものは、何もない状態で買っちゃって、フィルターを発信させて音出してました。涙ぐましいですよね(笑)。
- CD HATA : 音が出るオシレータ的なものまでにたどり着くのはいつごろ?
- Akiyuki Okayasu : 3,4年明けて働き始めてからです。お金に余裕ができて、モジュールを買い漁って収集つかなくなりました(笑)。
- Akihiko Matsumoto : 僕はモジューラーに出会う直前は、ピアノ曲集みたいなコンテンポラリー寄りなものをやっていて、その時に音楽の「演奏性」みたいなものをいったんとっぱらって、つまり「演奏されることを前提にしないピアノの音色を使った作曲」の限界みたいなものをやってたんです。アルバムを出し終わって、次に何をやろうって時に、一番対極にあるようなものをやってみたいと思ったんです。演奏性だけにフォーカスして自分ができることないかなと。ただアコースティックな楽器は時間的にも経験的にも今からエキスパートになるのは難しいなと思ったときに、電子音響の演奏性を高めて音楽表現をするという点でモジュラーを真っ先に思いついたんです。モジュラーってのはDAW以上に演奏性を考えた時に操りやすい。それでライブパフォーマンスのためのモジュラーってのをずっと考えて今までやってる感じです。
- Suzuki kentaro : 僕のモジュラーデビューはカプコンに入社してからで、初めてのボーナスを全額使ってモジュラー一式揃えたんです。Controlっていうところで買ったんですけど、勧められるがままに一度に買ってしまったんですが、本当はチマチマ買ってフィードバックしながら揃えたほうが良かったんでしょうね。プレッシャーポイントとか2個持ってますけど、今は眠ってますね。
- CD HATA : 馴れ初めをお聞きしましたが、今はどんな感じに使っているんでしょう?
- Suzuki kentaro : モジュラーシンセの用途としては、実務上使うことはそんなになくて、ただ、根本的にシンセという文化というか、ハードというのは大好きなので、モジュラーシンセで遊んでインスピレーションなどを得て自分のソフトウェアに取り入れていく感じです。 ただ理想の音はあるので、それをいかにモジュラーシンセで出すかっていうのは面白くて日々トライしてます。こういう処理で、こういうオシレーターで、こういう音が出て、という仕組み的なとこを楽しんでますね。
- Akihiko Matsumoto : 僕の場合は、先ほどの続きですが、ライブパフォーマンスのために使っています。
それまであまりライブ活動をやってこなかったのは、人前で披露するときに、あんまり良いパフォーマンスの仕方を思いつかなかったんです。
要は、DAWとかで徹底的に音楽を作り込んだものでライブをすると「家で音源聴いてるほうがいいじゃん...」ってなると思うんですよね。
できあいのものよりも素晴らしい音質・音色というのは得られないし、ライブ感を考えたときにも、ガチガチに作り込んでいると、その場でのインスピレーションとか反映できないし。
それまで僕が作ってきた音楽って、ライブだと作ったものを押し付けるみたいなやり方しかできないなと思ってたんです。
それで、いかにライブを作り込むかって考えたときに、その場でしかできない1回限りのものをやろうって考えたんです。
モジュラーとコンピュータ上の自分で開発したMax for LiveやMax/MSPのプログラムを組み合わせて、フレーズやモジュレーション信号を生成して、それをモジューラーで音響合成して、もう一回パソコンにオーディオとしてパラで戻してリアルタイムにMIXして、10パートくらい即興で併奏している状態に現在なっています。トラックメイキングをノンリアルタイムの編集で作り込むのではく、ステージ上でリアルタイム作曲するようなライブをやることを目指しました。
これはAI時代に、音だけ聞いても行為が見えないとブラックボックス化して演奏よりは、人間が行う価値を低く評価される可能性がある作曲自体をパフォーマンスとして見せてしまいたいと思っている面もあります。
その場限りのことしかできないけど、全部即興で、プログラムだけは仕込むみたいな形でやることにしたので、それであればお客さんもある程度スリリングに感じてもらえるかもしれないと思いました。
やってるほうも音源として完成しているものをただ発表しにいくのではなく、その場にいかなきゃどういう音楽になるかわからないという状態でライブを楽しめるなと。
そういう目的でシンセサイザー、電子音を使おうと考えると、僕の場合はモジュラーが一番便利なんです。
ソフトシンセでやろうとするとMIDIコンも何十台もないとできないってなっちゃうので、あらゆるパラメーターが表に出てて、思いつきで瞬時に音作りができるのでモジュラーが最適だなって思ってます。
パソコンから出す信号はいくつか種類があって、MIDIもモジュラーに送りますし、CV/Gateも送りますし、オーディオまわりは全部モジュラーのほうで音作りをして、パラでパソコンに戻してAbletonの中でMIXする感じですね。
ライブに関しては自由度を下げる意味はないと思っているので、ちゃんと自由な状態でも扱えるように、めちゃくちゃ練習をしています。
YouTubeに30分の動画で100本以上練習動画をアップしてるんですけど、それくらい練習しないと「事前に仕込んだほうがいいじゃん」みたいになってしまうので、自己満足にならないようにしました。
- Akiyuki Okayasu : 僕はsuzukiさんに近くて、シンセの仕組みとか、フィジカルな面を色々触ってインスピレーションを受けたいというのがあります。
アナログの魔法みたいなものがあるので、中身を知りたいというのもありますし、ハードウェアを作るので、いいアナログのモジュールと、自分の作ったモジュールを柔軟に組み合わせることができるっていうのは、コンピュータでやってると中々ない感覚だと思います。
- CD HATA : 3人で情報交換とかしてるんですか?
- Akiyuki Okayasu : わりと頻繁にしてますよね。AMCJ終わった後にみんなで宮地楽器行って、同じモジュール買ったり。
- CD HATA : めっちゃ仲良しじゃないですか(笑)。
- Akihiko Matsumoto : Mutable InstrumentsのBeads っていうグラニュラープロセス系のモジュールですね。
- CD HATA : 買った後にレビューなんかもしあったりしたりしてます?
- Suzuki kentaro : それはないですね。みな動画を出したりしてるから「なるほどな!」みたいな。
- Akiyuki Okayasu : すごい参考になりますよね。自分も持ってるシンセで、こんな音出るんだ!なんて思ったり。suzukiさんの音もえげつないですし、Matsumotoさんの最近のMake Noise縛りもいい感じですよね。
- Akihiko Matsumoto : 0-CoastとかStregaとかMake Noiseのセミモジュラー1台だけでなんとかやってみる、音楽をどう組み立てるかみたいなのをやってます。
僕らもM4Lの音のデバイスとかソフトウェアで作ったりしてるんで、音楽を作るための道具の設計の思想とか考えたり分析したりするんですけど、Make Noiseって小さくてもそのへんが凝縮されていて面白くて、そういうのを味わうにはスタンドアローンでそれだけで使ったほうが設計思想がわかったりするんですね。
- CD HATA : 深掘ってますね〜!suzukiさんのことは「えげつない」って、これは褒め言葉だと思うんですけど(笑)。
- Akiyuki Okayasu : やっぱりサウンドデザイナーだったというのがあるんでしょうけど、僕は素材を作るっていうのをやっていないんで、良い使い方だなって思います。
- Suzuki kentaro : 確かにサウンドデザイナー的なアプローチかもしれませんね。作曲家とは、また違うかもしれませんね。
- Akihiko Matsumoto : 僕もsuzukiさん以外にサウンドデザインを専業にしていた知り合いってほとんどいなくて、そういう人がモジュラーで作る音って初めて聴いたんですけど、やっぱり音楽を作ろうとしている人とは、また違うところにフォーカスされていて衝撃ですね!
suzukiさんの0-Coastを使ったベースみたいなキックみたいなのあるじゃないですか。ああいう使い方ってミュージシャンがやるの見たことないし、かっこいいですよね!
- Suzuki kentaro : なつかしいですね!
大きい会社のサウンドデザイン業務を専業でやっていると、サウンドデザイナーって30人とかいっぱいいるわけで、必然的にその人達みんなが「いい!」と思える音を作っていくことになります。それやると、一定の規則みたいなものは分かってくるので、そこで得られた経験は、モジュラーシンセで音を作る上でも、ジャッジができるようになっていますね。
- Suzuki kentaro : モジュールの箱っていう制限がある以上、どのメーカーも、いかに小さく、いかに思想を詰め込むか、それぞれ試行錯誤していて、同じEQでも原始的な原理は同じでもインターフェースが違うだけでまったく別物のエフェクターというのも沢山ありますし、そういった作り手の哲学、制限されたデザインみたいなのは、普通のシンセよりも圧倒的にモジュラーシンセのほうが伝わるところが多くて、M4Lもいかに幅を狭くデザインするかっていうのは似てるところがあって、インターフェースからインスパイアされるところはあると思うんですよね。
Make NoiseとかMutable、ALMとかブランドとしての軸のあるメーカーは、それぞれのデバイスでもちゃんと志向性を持っていて触ってて面白いですね。
- Akihiko Matsumoto : M4Lもユーロラックも幅をより小さくって、作る側にプレッシャーかかってますよね。そんな中でも、ノブの位置とか微調整して自然に使えるようにしたいとか考えないといけないですよね。
- Suzuki kentaro : 最近思い始めたのは、ノブの大きさとか位置とか、迷ってる時は一度寝かせた方がいいなって。
最終的に自分たちが自由にデザインできるところって限られていて、決まってるんだろうなって思うんです。
- Akiyuki Okayasu : 確かにノブ置く時には、ここには置けないなとか、実は置ける場所って決まってるんだよな、とは思いますね。
- CD HATA : みなさんは、買ったものは手放さない派ですか?
- Akihiko Matsumoto : 僕はわりと手放なさないですね。
- Akiyuki Okayasu : 同じく!欲しいときに手に入るとは限らないので。
- Akihiko Matsumoto : ですよね!ユーロラックって大量生産大量消費のものでないので、買い時を逃すと何年も待つことになったりしますからね。
- Suzuki kentaro : 僕もほぼ売ってないですね。最初のまとめ買いの時の数本手放しただけ。使わなくなっても、モノが好きだから手放さないってのもありますね。
- CD HATA : これ相当、沼の奥深くの住人たちの会話ですよ(笑)。
ずばり、好きなモジュールを一個挙げるとしたら?
- Suzuki kentaro : Teletypeです。見た目がカッコいい。8行っていう制限でいかにクリエイティブなシーケンスを作るかっていう意図されたデザイン感がかっこいいです。液晶のローファイな旨味を活かした字の光り方とか大好きです。
- CD HATA : やっぱり見た目は大事ですよね(笑)。
- Akiyuki Okayasu : 僕はMannequinsの Just Friendsっていう、オシレーターになったりするやつなんですけど、普通にCV / Gate とかで使う以外にめっちゃ堀り甲斐があるんですよ。リズムマシン的にもできたり、ポリフォニックのオシレーターみたいになったり。あと見た目です(笑)
- Akihiko Matsumoto : Make NoiseのMATHSですね。モジュラーシンセ始める人は入門的に使ったり買ったりすると思うんですけど、さきほどのOkayasuさんの話にも通じるんですが、用途が明確じゃないんですよ。オシレーターにもなるし、エンベロープジェネレータにもなるし、LFOにもなるし、エンベロープフォロワーみたいな使い方もできるし、スルーリミッターにもできる。発想次第で、いろんな使い方ができる万能なモジュールです。その柔軟性が好きなところですね。ソフトウェアだとあいまいなプラグインって存在しないと思うんですよ。アイデア次第でいろんな使い方ができるっていうのが好きですね。
その場の閃きで思いついたことを思いついたように使えるって、電子機器を使っていると難しくて、なんにでもなる特別な粘土みたいなものですね!
- CD HATA : 沼の最果てにいるような皆さんが今後やってみたいことは?
- Suzuki kentaro : VST産業のほうに動き出してまして。M4Lのほうでネタ作りをしているので、移植+αで試行錯誤していきます。
- Akiyuki Okayasu : 他の人にも使ってもらえるように、販売を視野に入れてモジュールを作っていきたいと思ってます。
- Akihiko Matsumoto : ソロ楽器のソロ演奏の即興みたいなアルバムを作っています。その次には電子音を一切使わない譜面だけの音楽をやりたいなと思って準備をしています。
- CD HATA : 最後にモジュラーの魅力を一言でどうぞ!
- 一同 : 楽しい〜!!!