ディレイ
皆さんは「やまびこ」を聞いたことはありますか?
自分がいる山から、遠くの山に向かって「ヤッホー」と呼びかけると、少し遅れて「ヤッホー」と自分の声が向かいの山から返ってきます。このように、同じ音が遅延して聞こえてくる音響効果のことを、現代ではディレイと呼んでいます。
日常だと、カラオケで自分の声にエコーをかけられると思いますが、これもまたディレイの一種です。そして、何かしら音楽に関わっている方なら、エフェクト(音響効果)としてのディレイは聴き慣れた言葉かと思います。では音響効果としてのディレイはどのように発展してきたのでしょうか?実はディレイの始まりはエコーだったのです…
その始まりは、1930年代から録音機器として活躍するオープンリールデッキを使用する第1次世界大戦の通信技術を支えるエンジニア(誰だかわからない・・・)が発見したことがきっかけ(らしい・・・!)偶発的に発見したPhasing、Flangingと来て、2台を使用したEchoに発展したとのこと。その後、第2次世界大戦が終戦を迎え、軍にエンジニアとして所属していた、現代ではギターピックアップなどで有名なレイ・バッツ氏が家電修理屋さんとして独立。そして当時ギタリストとして名を馳せていたBill Gwaltney氏と親しくしていたバッツ氏。Les Paul氏を敬愛していたBill氏のために、Les Paul氏が行なっていたMTRによる多重録音(Sound on Sound)の効果を手軽に得られるような機材を開発しようと試みます。そして1952年に世界初のエコーを搭載したギターアンプ「Echosonic」が出来上がりました。この頃、残響音を加えることができるアンプはこの一台しか存在しておらず、Bill氏はとても気に入ったそうで、ライブでは必ず使用していたとか。
Echosonic
そして、紆余曲折あり、Elvis Presleyのバックギタリスト、Scotty Moore氏の手に渡ると一躍有名に。この後波に乗り、Rickenbacker社のオファーにより、Echo Soundという名前で量産・市販されることになりました。そしてこのアンプは海を渡り、イギリスでエコー部分だけを抜き取られ、製品化されます。それが知る人ぞ知るMeazzi社のechoで、1950年代中~後半のお話。
MEAZZI.ORG.UKこの頃問題視されていたのが、テープのコンディションの変化。日によって変化しているとレコーディングが安定しません。その打開策的に登場したのが、最初で最後の金属製エコーと呼ばれているBinson社のEchoRec、1958年のことです。
Echorec
磁気テープではなく金属のテープ・ドラムを使用し、強いモーターとゴムのプーリーで回転させる機構を持っていました。テープが金属製になったことで、伸びが減り、籠もっていた音質がクリアになり、ノイズも減ったと言います。耐久性も高く、持ち運びにも重宝されていました。。と、かなり長くなってきたのでここから先も細かくいろいろあったようですが、ググっていただけると、、
その後、回路がソリッドステートになり、テープがカートリッジ式に。真空管がトランジスタに変わり安定性が向上したり。エコーは着々と進化を遂げてきました。日本でも、名機「Space Echo RE201」がRolandから発売されましたよね。
Space Echo Re201
さらに時代は進み、制御系がトランジスタから集積回路に移り変わるとBBD素子と呼ばれる遅延素子が登場します。バケツリレー素子と呼ばれたそれは、電気信号を2つに分け、一方はそのまま出力し、もう一方はいくつものコンデンサーを通して遅延させ、最終的に元の信号と混ぜて出力するというもの。これがいわゆる「アナログディレイ」の登場であります。
そしていろいろあり1983年。デジタル化がディレイ にも訪れ、MIDI規格の統一により正確なコントロールが可能となっていきました。この頃からICが使用されたデジタルディレイが登場。デジタル化が進み、ICがLSI化されていくと、高音質・ロングディレイ化・多機能化・低価格化。
めちゃめちゃに高音質で手に入りやすくなったなったディレイが世の中に浸透していくのですが、ここで綺麗すぎる音質が気になる人達が出始めます。コンデンサによる高音域の減衰など、昔のアナログディレイが耳に馴染んでいる人たちからすると味気のない音になってしまったデジタルディレイ。そこでメーカーたちはサンプリングレートを落としたり、トーンパラメーターを追加したりするわけですが、その後さらなる集積回路の進化により生まれたのがモデリングという技術。それは、過去の名機たちの味のあるサウンドをデジタルで再現するというものでした。初期のモデリングは、名機の音響特性を解析し、それを再現する程度でしたが、物理モデリングという手法が登場すると、回路に使われている素子レベルから特性を解析・再現していくものも出てきました。そしてこれはもう昨今のお話ですが、DSPと呼ばれるサウンド処理ICチップが高性能化してくると、高度なモデリングが可能となり、さらにデジタルの良さであるロングディレイも付加できるようなパワフルなものが誕生していきましたと。
Strymon El Capistan
さて、長々とまとめてしまいましたが、ディレイの変遷、お楽しみいただけたでしょうか?エフェクターとしてのディレイのお話を中心に話してしまいましたが、ディレイはライブ会場やカラオケなど、様々な場所で皆さんに臨場感や高揚感・気持ちよさを与えてくれるような音響効果だと思っております。カラオケではエコーの具合も調整できるようになっていますので、みなさんも上のエフェクターの魑魅魍魎さを横目に見ながら、「好きなディレイ具合」を探してみてはいかがでしょうか?
とても長くなりましたが本日はこの辺で・・・!