「この食パン、【もちもち】してておいしいね!」
「もうすぐ本番、【そわそわ】するなあ…」
「雨が突然【ザーザー】と降ってきて、靴下が【ぐちゃぐちゃ】になっちゃった」など、
わたしたちが会話の中で当たり前のように使っている「オノマトペ」。
きっと、絶妙なニュアンスを表現するには欠かせない存在なのではないでしょうか。
今回の音コラムでは、そんな「オノマトペ」について特集します。
オノマトペとは、自然界の音や声、物事の状態や動きなどを音でまねて表した語のことです。擬音・擬声という意味の「onomatopoeia」という言葉が語源となっています。
音象徴語とも呼ばれており、音そのものがある特定のイメージを思い起こさせる言葉であると言われています。
また、オノマトペは、現存する日本最古の歴史書である『古事記』において既に登場しているとされており、日本のオノマトペには長い歴史があることがわかっています。
日本語研究の第一人者である金田一春彦先生著の『擬音語・擬態語辞典』(1978年出版)では、オノマトペを次の5つに分類しています。
日本語のオノマトペは、他言語に比べて非常に多いと言われています。
一説によると、日本語には他言語の3~5倍ものオノマトペが存在しており、その語数は4500語以上にのぼると言われています。
(ちなみに、最もオノマトペが多い言語は韓国語だそうです。)
一体なぜ、日本語にはオノマトペが多く存在するのでしょうか?
その鍵は、「動詞」にあります。
一般的に、日本語は、他の言語に比べると動詞が少ない言語だと言われています。
そのため、英語などの他言語では動詞一語だけで表現できるような状況も、日本語に存在する動詞一語だけでは微妙なニュアンスを表現できず、「副詞(オノマトペ)+動詞」という組み合わせで表現されます。
例えば、笑っている様子を表現する場合、英語と日本語では次のような違いがあります。
このように、英語では動詞一語で言い表せる様子であっても、日本語の場合は副詞(オノマトペ)の力を借りなければ適切に表現することはできません。
つまり、たくさんのオノマトペは、日本語の動詞一語だけではカバーできないニュアンスを絶妙に表現するために存在するのです。
オノマトペには、「言葉が持つ音的な情報が印象を伝える」という特徴があります。
突然ですが、ここでみなさんに質問です。
次の二つの図形は、片方が「ブーバ」でもう片方が「キキ」です。
さて、あなたはどちらが「ブーバ」だと思いますか?
不思議なことに、多くの人が右の図形を「ブーバ」、左の図形を「キキ」だとみなすと言われています。
これは「ブーバ・キキ効果」と呼ばれ、言葉の音の印象から視覚的な情報(今回は図形)を連想する現象のことを指します。
つまりわたしたちは、「ブーバ」という言葉の音からは曲線的な図形を、「キキ」という言葉の音からは鋭利な図形を連想しているんですね。
この、言葉の意味と言葉を構成する音との間になんらかの必然的な関係があるという考えのことを「音象徴(sound symbolism)」と言います。
実は、わたしたちの身近なところにも音象徴的な考え方が応用されています。
例えば、商品やブランドの名前です。
お菓子売り場を想像してみてください。
ポッキー、アポロ、プリングルス、カプリコ、ポイフル...などなど、
お手頃な価格帯のお菓子には半濁音(パ・ピ・プ・ペ・ポ)が使われている商品が多いと思いませんか?
これは、半濁音には明るくキャッチーなイメージがあり、マーケティングの世界では、半濁音を使ったネーミングにすることで集客効果が上がると考えられているためです。
一方で、ガンダム、バレンシアガ、ドラゴンボール、ダンヒルなど、
男性・男児向けの商品では濁音(”)を使うと効果的だとも言われています。
これは、濁音からは「重さ」や「強さ」、「高級感」といった要素を連想すると考えられているためです。
やはり、音と言葉には密接な関わりがあるということが言えそうですね。
音象徴を意識すると、わたしたちの暮らしをまた違った視点から楽しめるかもしれません。
是非みなさんも、普段の会話の中のオノマトペや、身の回りのものの名前からどんな印象を受けているかについて意識して過ごしてみてくださいね!