新型コロナウイルスが流行しはじめてから約2年。マスクを着用しながらの生活やリモートワークもすっかり日常になりつつあります。
みなさんの中には、マスクをしながらの会話やオンライン会議において、相手の言葉が聞き取りづらいと感じた経験がある方も多いのではないでしょうか。
今回の音コラムでは、コロナ禍特有の「聞こえづらさ」の要因のひとつである「マガーク効果」に迫ります。
マガーク効果とは?
マガーク効果とは、視覚による情報(主に読唇)が聴覚の情報に干渉し、音声の聞こえ方を変容させてしまう現象のことで、1976年にマガークさんとマクドナルドさんによって報告されました。
その報告に記載されている実験内容とは、ある被験者に「ガ(ga)」という音を発している映像と「バ(ba)」という音声を組み合わせた映像を視聴させると、被験者は「ガ」でも「バ」でもなく、「ダ(da)」という音が聞こえたように感じた、というものです。
つまり、ある音を発話している映像(視覚情報)が別の音の音声(聴覚情報)の認識に干渉し、第三の音が聞こえたように脳が錯覚しているのです。
マガーク効果は、わたしたちの脳が言語処理を行うよりも前の段階で、視覚と聴覚からの矛盾した情報を自動的に統合することによって発生すると言われています。
わたしたちの脳は、より素早く正確な運動ができるように、複数の感覚チャネルからの情報を統合するようにプログラムされているのです。
withコロナとマガーク効果
さて、withコロナの現代ではマスクを着けて過ごすことも当たり前になりつつありますが、マスクを着用して会話をすると「音声が聞こえにくい」と感じることも多いですよね。
なぜマスクを着けていると音声が聞こえにくいのでしょうか?
理由は大きく二つ考えられます。
一つ目の理由は、マスクが音声の周波数に影響を及ぼしているからです。
ヤマハサウンドシステム株式会社の「マスク、マウスシールドによる音への影響」の実験によると、不織布マスクを着用すると、何も着用していないときに比べて3kHz以上の帯域でレベルが下がるという結果が示されています。
声の芯となる2kHz以上の帯域が下がってしまうと、モコモコっとした聞こえ方になってしまうため、マスクを着用したときの音声は、マスクを着用していないときに比べて数値的にも聞こえづらくなっていると言えそうです。
二つ目の理由は、「マガーク効果」が起こっているからです。
先程述べた通り、わたしたちの脳は視覚の情報と聴覚の情報を統合して音を認識しています。
マスクで口元が覆われていると、話をしている人の唇の動きを見ることができません。
そのため、「口元の動きがわからない」という視覚情報が音声情報に干渉し、余計に聞こえづらく感じさせてしまうのです。
また、オンライン会議でもマガーク効果は発生しやすいと考えられています。
オンライン会議では、各々の顔が画面上に映し出されるため、対面で行う会議よりも相手の顔や口元に注目しやすくなっていると言えます。
webカメラの映像と音声に遅延が生じたり、回線の不具合で映像が途切れたりしてしまうと、視覚が捉える相手の口の動きと聴覚が捉える音声に矛盾が生じ、脳の錯覚である「マガーク効果」が起こるのです。
このように、withコロナの時代では、言葉を発して正しい情報を伝えたつもりでも、マガーク効果の影響でうまく伝わらなかったり、意図と異なる解釈をされてしまったりする可能性もあるかもしれません。
是非、わたしたちの日常には「マガーク効果」が潜んでいるということを意識し、マスクを着けて会話をするときにはよりはっきりと声を出したり、オンライン会議ではわかりやすい資料を画面に表示させたりといった工夫をして、唇の動きに頼らないようなコミュニケーションを試してみてくださいね。