みなさんは、錯覚について意識したことはありますか? わたしたち人間の脳はとても不思議で、知らず知らずのうちにさまざまな錯覚を起こしています。
たとえば、「本当は同じ長さの2本の線なのに、”∨”や”∧”のような先端の部分の違いで線の長さが異なって見える」という目の錯覚の話は一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
実はわたしたち人間は、耳でも錯覚を起こしてしまうことがあります。
今回の音コラムでは、耳の錯覚のひとつである「ハース効果」について解説していきます。
あまり馴染みがない言葉かもしれませんが、実際に体験してみるととっても不思議で面白いですよ。
ハース効果とは、「同じ音」が「同じ音量」で「別々の方向」から連続して聴こえた場合、耳に届くまでの「差が0.04秒以内」であれば、先に聴こえた音が鳴っている方向から1つの音として聴こえるという現象のことです。
この現象は、1949年にハース博士によって発見され、別名「先行音効果」とも言われています。それでは、実際にハース効果を体験してみましょう!
以下の4つの音源は、同じ音を同じ音量で別々の方向(左右)から鳴らしています。
番号が増えるにつれて、左側の音源を遅らせる度合いを大きくしていきます。 それぞれどのように聴こえるでしょうか。 是非「音が聞こえてくる方向」や「音の本数」に着目して聴き比べてみてください。
※イヤホンやヘッドホンでの試聴をおすすめします。
※分かりにくい場合は音量を小さめに設定して試聴してみてください。
左右から同じ音量で同時に鳴っているため、1本の音が真ん中から鳴っているように聴こえます。
1本の音が右側から鳴っているように聴こえます。 音源を遅らせた度合いは0.01秒 < 0.04秒(ハース効果の範囲)ですので、ハース効果が起こっていると言えそうですね。また、①に比べて音に少し広がりを感じました。
1本の音が右側から鳴っているように聴こえます。
音源を遅らせた度合いは0.036秒 < 0.04秒(ハース効果の範囲)ですので、ギリギリではありますが、ハース効果が起こっていると言えそうです。 また、②に比べてさらに音に広がりを感じました。
2本の音が左右それぞれから鳴っているように聴こえます。
音源を遅らせた度合いは0.07秒 > 0.04秒ですので、たしかにハース効果の範囲外です。 いかがでしたか?
人間の脳は、わたしたちが思っているよりも騙されやすいのかもしれません。実は、わたしたちの身の回りでも「ハース効果」が応用されている場所があるのですが、みなさんはどこだかわかりますか?
正解は、大きなライブ会場やコンサートホールです。大きなライブ会場やコンサートホールには、会場の中程に「ディレイスピーカー」という後方の客席へ音を届けるためのスピーカーが設置されています。
会場が広くステージから後方の客席までの距離が大きい場合は、会場前方に設置されたメインスピーカーの音だけでは音が届かない場合があるため、ディレイスピーカーから全く同じ音を出してカバーするのです。
しかし、メインスピーカーで鳴っている音と全く同じ音を同じタイミングでディレイスピーカーから鳴らした場合、後方の客席ではどのように聴こえるでしょうか?
後方の客席では、ステージからの距離が大きい分、ディレイスピーカーから発せられた音が先に後方のお客様の耳に届いてしまい、ディレイスピーカーの方に注意が向いてしまうことが容易に想像できます。
後方のお客様が聴いている音はディレイスピーカーによって増強された音だけれど、お客様にはステージの音を聴いていると錯覚させたい...!
そこで実際の会場では「ハース効果」を利用して、ディレイスピーカーでは、メインスピーカーの音がディレイスピーカーの音よりも先に後方の客席に届くように「遅延させた音」を鳴らしているのです。
このように、わたしたちの日常には、錯覚を逆手に取ったさまざまな工夫が潜んでいます。
みなさんも、暮らしの中に潜む「錯覚」を是非見つけてみてくださいね。